マレイシアにおけるハイブリッド稲の開発とその利用
マレイシアでハイブリッド稲を利用する上で問題とされてきた、採種に使う細胞質雄性不稔の稔性の転換の問題を解決した。また、高い収量性を示すハイブリッド稲組合わせを見つけ出した。
背景・ねらい
マレイシアのコメの自給率は約70%で、不足分はタイ等からの輸入に頼っている。中国に続きインドでもハイブリッド稲が実用化され、マレイシアでもその実用化に対する要望が高まっている。しかし、ハイブリッド稲種子の採種に使う細胞質雄性不稔が可稔化することや、移植より播種量の多い直播が広く行われている等の理由で研究は進展していなかった。そこで本研究では、これらの問題を解決し、マレイシアの水稲の生産性を向上し得るハイブリッド稲を開発することをめざした。
成果の内容・特徴
- 隔離条件下では細胞質雄性稔性の稔性の転換は起こらず、自生イネの混入等を勘違いしたものと思われる(図1)。従って、マレイシアでも既存の細胞質雄性不稔系統を使ったハイブリッド稲の採種を問題なく行うことができる。
- 400点を超えるハイブリッド稲の組合せについて収量試験を行い、マレイシアの主要品種であるMR84より常に20%高い収量を示し、しかも生育期間の短いIR69690HとIR69694Hを見出した。マレイシアの細胞質雄性不稔系統と国際稲研究所の稔性回復系統とのハイブリッド稲の組合わせにも有望である(図2)。
- 直播・低播種量でのハイブリッド稲の収量性は、紋枯病と倒状の多発により、移植条件下に比べ、それほど高くなかった。ハイブリッド稲は初期生育が優れていることが知られているが、Echinochloa 属との競争性が一般品種より勝ることはなかった(図3)。従って、ハイブリッド稲の高い種子コストを補うため、播種量を減らした直播を行うことは実用的でないと考えられた。
これらのハイブリッド稲は直播では適さないが、田植により実用化可能と示唆された。
成果の活用面・留意点
ハイブリッド稲の開発を続けるには、国際稲研究所との協力の下に継続的な収量試験を行い、優れたハイブリッド稲を選抜する必要がある。採種は農業省(DOA)等で行い、播種量を減らすため田植え機を使って栽培するのが最も容易なハイブリッド稲の利用法であると考えられる。マレイシア農業開発研究所、ムダ農業開発庁(MADA)、農業省を対象としたハイブリッド稲集中コース、セミナー等で以上の内容の提案を行った(図4)。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 生物資源部
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マレーシア農業研究開発研究所
- 分類
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行政
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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マレイシアにおける水稲生産性拡大のためのハイブリッド稲の開発
- 研究期間
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平成7~9年度
- 研究担当者
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加藤 浩 ( 生物資源部 )
- ほか
- 発表論文等
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Kato, H., Sobri, M. and Guok, H. P. (1997) Death of thermosensitive genic male sterile seedlings in Malaysian ricefields. IRRN, 22: 6.
Kato, H., Guok, H. P. and Azlan, S. (1996) Hybrid rice breeding in Malaysia. Proceeding of the 2nd National Congress on Genetics, 221-224.
- 日本語PDF
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1997_19_A3_ja.pdf1.28 MB