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926. 9つのキーワードで見る2023年~拡大する不平等

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926. 9つのキーワードで見る2023年~拡大する不平等

 

不安定な1年と言われた2022年に対し、2023年は不平等の問題が顕在化した1年となりました。いまだ続くパンデミックの影響に、気候変動・紛争や暴力・食料不安が加わり、多くの国において完全な経済回復への道筋は困難に見舞われました。この1年間を振り返ると、低所得国ほど状況は厳しく、財務危機や資源逼迫など複合的な危機(ポリクライシス:polycrises)の影響で開発が難航しました。 

世界銀行は先日、2023年を振り返り、「9つの図表で見る2023年~拡大する不平等」と題するブログ記事を公表しました。以下、記事を参考に、9つのキーワードで2023年を振り返ってみたいと思います。 


1.    貧困 
ここ数年貧困率の削減は停滞しています。1日2.15ドル以下で生活する極度の貧困人口は11億人だった2010年から順調に減少し、2018年には約7億人になりました。しかしその後、進歩は停滞し、抜け出せない水準が続いています。2023年に6.9億人とされた貧困人口の要因はパンデミックだけではありません。紛争や対立によって、貧困以外のSDGs課題への取り組みも困難に直面するのが現状です。


2.    債務
途上国は財務危機を抱え、借金返済に追われる1年となりました。世界銀行が公表した国際債務報告書(IDR)によると、全ての発展途上国で債務関連リスクが増大し、状況は今後も続くとされています。特に最貧困国は状況が厳しく、債務返済の急増で経済が圧迫されています。さらに報告書は2022年の途上国の公的債務返済は過去最高の4,435億ドルに達したことに触れ、国際開発協会(IDA)の融資適格国に指定される最貧国は債務返済に過去最高の889億ドルを支払ったことを明らかにしました。借り入れコストの膨張で債務危機のリスクが生じ、健康、教育、環境などほかの重要分野がコストカットを強いられる結果となりました。


3.    世界経済の見通し
インフレ高進、金利上昇、投資減少やロシアのウクライナ侵攻による様々な要因で経済成長は低迷しています。世界全体の成長率の予測が2023年で1.7%、2024年で2.7%と低く、景気後退は今後も続くとされています。各国で2023年の成長見込みに下方修正が行われ先進国では95%が、新興国や発展途上国では70%近く国が成長予測を引き下げた結果となりました。


4.    長期成長低下の見通し
新型コロナウイルス及びウクライナ情勢の余波は長期的に潜在することが予測されています。インフレを引き起こすことなく長期的に持続する経済成長は30年ぶりの低水準に落ちることが予想され、その要因に生産年齢人口の低下等が挙げられました。


5.    気候
気候変動の影響で、2050年までに約2億1600万人もの人が国内移住を強い入れる可能性が言及されました。水ストレス、農作物の収量減少は、慢性的に食料不安を抱える脆弱な国ほど深刻化する見込みです。農業由来温室効果ガスの排出削減や再生可能のエネルギー普及は、化石燃料からの脱却と同時進行で行うことが必要不可欠です。さらに、先進国と途上国で排出量と削減負担にアンバランスが生じていることから、「気候正義」が追求されています。


6.    商品市場
継続するロシアによるウクライナ侵攻、緊迫する中東情勢にパンデミックの余波を加え、度重なる紛争と衝突の影響で世界の商品市場は混乱に陥っています。2020-2022年に上昇し続けた商品価格は、2023年に前年比の25%近く下落し、パンデミック以来の下落となりました。それでも現在、ほとんど商品において2015-2019年の平均を上回っています。原油・農産物価格は世界経済の停滞や供給量の増加によって2024年も下落が続くと予想され、2025年以降から落ち着くことが期待されています。


7.    女性、ビジネス、法律の関係
世界で労働年齢にある24億人もの女性が男性と同じ権利を享受できていません。女性の経済的機会に悪影響を与える法律規制の実態調査によると、男性に比べて女性は法的権利の77%しか享受できていないことが明らかになりました。さらに、近年では女性の平等権利を促進する法律改定のペースが落ち込み、2022年は2001年以来最低の水準となっています。法的環境整備の不十分さが女性たちの自立とエンパワーメントに大きな障害であり続けています。


8.    世界開発レポート~人口移動
今後注目すべき開発課題となる人口移動ですが、現在世界人口の2.3%に当たる1億8,400万人の人々が母国を離れて生活しています。移民にどのように対応し保護するかが、当人のみならず受入国の経済的成長、繁栄に繋がります。高齢化が進む国の長期的成長を支える上で、移民対策は重要な役割を果たすでしょう。


9.    国境を越えた働き方~オンラインギグワークの増加
インターネット上のサービスにて単発の仕事を請け負う労働者、オンラインギグワーカー(online gig worker)が増え、世界の労働力の最大12%を占めていると言われています。 その需要は発展途上国で急速に高まり、柔軟な働き方と追加収入の可能性が多くの若者や女性、低熟練労働者の関心を集めています。運営側ではいかに持続可能なビジネスモデルを構築できるかが問われる中、ギグ市場の展開に従う労働者のデジタルスキルの整備、収入源の増加、非正規労働者の社会的保護の対象拡大が期待されています。

 

(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

 

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