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639. 微量栄養素不足人口の新たな推定値

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639. 微量栄養素不足人口の新たな推定値

微量栄養素(ビタミン・ミネラル)不足は「隠れた飢餓」とも呼ばれ、世界中に蔓延している深刻な問題です。ビタミン・ミネラルは、私たちの体において大量に必要な物質ではない(そのため「微量」栄養素と呼ばれる)とはいえ、成長、脳の発達、免疫など多くの重要な機能に不可欠な役割を果たしており、その欠乏は、貧血、失明、認知障害、感染症への罹患など、健康ひいては将来の可能性に悪影響を及ぼします。

今回は、最近Lancet Global Health誌に掲載された論文(Stevens et al. 2022)をご紹介します。世界的な微量栄養素不足人口に関する唯一の既存の推定値は30年以上前のもので、しかも貧血のみに基づいています。そのため本論文では、2003年から2019年のデータをもとに、未就学児(生後 6 ~ 59 か月)と生殖可能年齢(15 ~ 49 歳)の妊娠していない女性で、3 種類の微量栄養素(鉄、亜鉛、葉酸)のうち少なくとも 1種類が欠乏している世界的および地域的な割合を推定することを目的としました。

結果、世界中の未就学児の約 2 人に 1 人、生殖年齢の女性の約 3 人に 2 人が少なくとも 1 種類の微量栄養素欠乏症を患っていると推計されました。これは未就学児3億7200万人と妊娠していない生殖年齢女性12億人に相当します。なお数十年前の推定では世界中で 20 億人が微量栄養素不足であるとのことでしたが、本論文では対象を絞り異なる手法を用いたため比較はできません。

微量栄養素欠乏の未就学児の4分の3は南アジア、サブサハラアフリカ、東アジアおよび太平洋地域に住んでいます。微量栄養素欠乏症の生殖年齢の妊娠していない女性の半数以上が、東アジアおよび太平洋地域、または南アジアに住んでいます。低中所得国で不足人口が多いのですが、高所得国でも不適切な食事によって半数近くの子ども・女性が微量栄養素欠乏に陥っていました。

世界中の微量栄養素不足人口に関するデータは限られているため、本論文の推定値も確実なものではないとしながらも、微量栄養素不足が世界中で蔓延していることが改めて示されました。

(参考文献)
Stevens, G. A., T. Beal, M.N.N. Mbuya, et al.  (2022). Micronutrient deficiencies among preschool-aged children and women of reproductive age worldwide: a pooled analysis of individual-level data from population-representative surveys. Lancet Global Health, 10(11), e1590-99. https://doi.org/10.1016/S2214-109X(22)00367-9

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)


 

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