アフリカイネ(Oryza glaberrima)の中には長期完全冠水において地上部を伸長させ成長できるものがある
アフリカイネO. glaberrimaは、冠水中に地上部が伸長することで冠水から逃れる性質いわゆる冠水抵抗性を示す。その洪水被害軽減のメカニズムは、冠水中の高伸長速度、水面上に抽出した葉の光合成機能と乾物生産能力の向上である。
背景・ねらい
サブサハラアフリカ地域の稲作の約9割が灌漑排水設備のない圃場で営まれている。このような場所では降雨量の年次変動が大きく、毎年洪水や干ばつの被害が多発している。このため、安定的コメ生産を維持するためには、現地の水環境に適応した稲作技術の導入が重要である。本研究は、アフリカの低湿地等で発生する洪水条件下の稲作技術開発を目的として、アフリカで古くから栽培されているアフリカイネ(O. glaberrima Steud.)を長期間の冠水条件下で生育させて、洪水の被害軽減のための機作を栽培生理学的に明らかにする。
成果の内容・特徴
- 試験圃場において、O. sativa30品種、O. glaberrima27品種を生育初期から中期にかけて、31日間という長期完全冠水条件下で生育させると、O. sativaの一部は枯死するが、O. glaberrimaの全ては生存する。冠水区におけるイネの地上部の伸長速度および乾物増加速度は、O. glaberrimaがO. sativaに比べて1%水準で有意に大きい(表1)。
- 長期冠水の被害を軽減して生育を維持する特性を冠水抵抗性と呼ぶ。この場合の抵抗性とは、冠水から逃避する性質を示す。代表的な深水イネ品種Nylon (O. sativa)とYélé1A(O. glaberrima)は高い冠水抵抗性を示し、深水感受性のBanjoulouに比べて冠水中に顕著な地上部乾物生産量と全葉面積の増大を示す(表2)。特に、Yélé1AはNylonに比べて完全冠水条件下でより大きい生育量を示す。
- O. glaberrimaの冠水被害を軽減するメカニズムは、水位上昇に伴う茎葉伸張によって新葉をいち早く水面上に抽出し、新葉の光合成能力を向上させていることである(表2)。このメカニズムには、冠水中の葉部の純同化率(葉面積当たりの乾物重増加速度)が密接に関連している(図1)。
成果の活用面・留意点
- 成果は、アフリカの低湿地に適用する冠水抵抗性品種の現場への導入の際に活用できる。
具体的データ
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表1 冠水条件が冠水中の地上部の伸長速度および乾物増加速度に及ぼす影響
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表2 冠水条件が地上部の乾物生産量と葉面積 に及ぼす影響
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測定は冠水後37日目.試験はグロスチャンバー内で行った.
- Affiliation
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国際農研 生産環境領域
- 分類
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研究B
- 予算区分
- アフリカ低湿地
- 研究課題
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アフリカにおける冠水耐性の向上
- 研究期間
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2008年度(2006~2008年度)
- 研究担当者
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坂上 潤一 ( 生産環境領域 )
城宝 由紀子 ( 生産環境領域 )
BOUROUNO Nestor ( ギニア農学研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Sakagami et al. (2009) Annals of Botany 103:171-180.
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