西アフリカ・サヘル地域における持続的作物生産のための有機物資材の必要投入量は0.8 t C ha-1である
西アフリカ・サヘル地域における土壌有機物動態の予測に対し、既存の土壌有機物動態モデルRothamsted Carbon Modelの予測精度は、調査した全ての土壌管理技術において概ね良好であり、土壌有機物動態の長期的予測は可能である。検証したモデルによれば、持続的作物生産のための有機質資材の必要投入量は約0.8 t C ha-1である。
背景・ねらい
これまでに多くの既存研究が、西アフリカ・サヘル地域の低肥沃度砂質土壌における、有機質資材投入による作物生産量向上と土壌有機物量の増大を報告しているが、多くは短期的結果に基づく報告であり、長期的視野にたった持続的作物生産を評価したものとは言い難い。このような短期的結果に基づく技術の長期的持続性の評価には、シミュレーションモデルを用いた予測が有効と考えられる。しかし、多くの既存モデルは温帯地域を対象として構築されたものであり、熱帯半乾燥気候であるサヘル地域において活用するには、モデルの適用可能性を導入前に検討する必要がある。そこで、既存土壌有機物動態モデルの中でも、利便性が高いRothamsted Carbon Model(以下Roth-C)の当該地域における適用可能性を、ニジェールの長期連用圃場で得られた実測データとモデル予測値の比較検証により明らかにする。
成果の内容・特徴
- 土地管理の異なる二つの長期連用圃場において観測された土壌有機炭素(SOC)量の変化と、Roth-Cによって予測されたSOC量の変化を比較し、Roth-Cの適用可能性を検証する。
- 二つの長期連用圃場(計32処理)におけるモデル精度は概ね良好である(図1、図2)。
- 全ての長期連用圃場において実測値とモデル値の間の不適合度を示すLOFIT (Lack of Fit)およびRMSE (Root Mean Square Error)に有意差がなく(表1)、サヘル地域において、Roth-Cは土壌管理条件に関わらず、土壌有機物動態を長期的に予測可能である。
- JIRCASがニジェールの土壌肥沃度向上のために提案した27の技術オプションと、国際半乾燥地熱帯作物研究所(ICRISAT)における長期連用試験32処理の、計59処理からモデル計算された10年間SOC変化量と年平均投入炭素量の関係から、調査地におけるSOC維持に必要な投入炭素量は約0.8 t C ha-1である。なお、回帰式の決定係数は0.948で、有意(p <0.01)である(図3)。計算された必要投入炭素量は、作物残渣として約1.6~2.0 t ha-1、堆肥として約2.0~4.0 t ha-1であり、収穫残渣還元や堆肥投入により充足できる。
成果の活用面・留意点
- 計算された必要投入炭素量はSOCを維持するための目安であり、作物生産量を保障するものではない。
- 本試験の結果はサヘル地域を代表するものとして、ニジェール国で行われたものである。また、全てのSOC量は表層土壌試料のデータである。なおモデルの精度検証は作物残渣還元処理を対象とした。
- Roth-Cは空間情報と組み合わせることにより地域レベルでの炭素動態予測が可能である。
具体的データ
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エラーバーは標準偏差(n=4) -
エラーバーは標準偏差 (n=4) -
表1 二つの長期連用圃場におけるモデルSOC値と実測SOC値の統計的適合度
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- Affiliation
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国際農研 生産環境領域
- 分類
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研究B
- 予算区分
- 交付金[アフリカ土壌]
- 研究課題
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アフリカ土壌
- 研究期間
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2008~2009年度
- 研究担当者
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中村 智史 ( 生産環境領域 )
林 慶一 ( 生産環境領域 )
大前 英 ( 生産環境領域 )
真常 仁志 ( 京都大学 )
ORCID ID0000-0002-7244-9558科研費研究者番号: 70359826飛田 哲 ( 生産環境領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Nakamura et al. (2009) 5th conference of the African Soil Science Society、2009年11月、カメルーン
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