農村開発に資する植林による世界初のクリーン開発メカニズム(CDM)事業の国連登録
長期の収奪型農業により、土壌侵食、地力劣化の著しい小規模農民の居住地域において、植林及びアグロフォレストリーによる持続的な農村開発並びに温室効果ガスの吸収を目的としたクリーン開発メカニズム(CDM)事業を形成する手法を開発・実証し、国連登録を行った。
背景・ねらい
クリーン開発メカニズム(CDM)は、開発途上国(ホスト国)で実施される温室効果ガス(GHG)排出削減プロジェクトで達成される排出削減量を、クレジット(CER)化を通じて先進国の排出削減目標量に計上できるシステムである。農村開発の一環としてCDMを活用することにより、農村開発の持続性の確保に資することを目的として、パラグアイ国において、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の定める方法論を適用し、小規模植林CDMプロジェクトを形成し、プロジェクトのUNFCCC-CDM理事会登録及びCERを取得するまでの手法を開発する。(図1)
成果の内容・特徴
- パラグアイ国で6番目に平均所得が低く、小規模農民の多いパラグアリ県において、2市16集落を選定し、(1)参加型手法による農民の意識改革、(2)農家自身による農家開発計画(PIF)の作成、(3)PIF記載の所得向上活動ごとの農家グループの組織化、(4)経費の一部の農家負担による所得向上活動、(5)農家グループのうち植林グループにつきCDM化の取り組み、(6)CDM化の実現、(7)獲得CERの農村開発への利用という一連の活動を実証し、CDM化の実現を達成した。
- CDMではUNFCCC-CDM理事会への登録が必要であり、そのためには植栽樹種ごとの成長シナリオ、ベースライン(現植生に蓄積されたCO2量の現況及び将来予測)、リーケージ(植林によって移転される耕地及び家畜からのCO2排出量の推計)、土地適格性(ホスト国で定める森林定義との整合性、1989年末以降森林ではなかったことの証明)、土地所有権、追加性の証明、モニタリング方法等に係る要件を全て満足させ、適正な文書、調査結果、根拠文献を整備し、UNFCCCに登録された指定運営組織(DOE)による有効化審査でその事実が確認されなければならない。植林CDMでは、ホスト国に基礎的データが不足するため、ベースライン及びリーケージの推定、土地適格性の証明、土地所有権の明確化が非常に難しい。(図2)
- 調査では、苗畑の設置、参加農家ごとのベースラインの確定、植林計画(樹種、植栽年、アグロフォレストリーの有無)、政府文書の取得(森林定義、低所得地域宣言等)、農家との合意書及び土地権利証明書の取得等の基礎調査を実施し、プロジェクト設計書(PDD)を作成し、農家への技術指導及び苗の配布を行った。植栽は農家自身で行われ、参加農家167戸が有する240区画、215 haにおける植林を2008年に完了した。
- 作成したPDDはDOEによる有効化審査を受け、DOEの指摘事項を追加調査等により解決した。その後、パラグアイ国政府からプロジェクト承認文書(LOA)を取得し、2009年3月に日本政府のLOAを受領した。2009年5月、農村開発に資する植林CDMプロジェクトとしては世界で初めて国連登録される予定。(図3)
- 調査地域における植林CDMプロジェクトの展示のほか、調査で作成した方法論の適用に係るガイドライン等により、土地が豊富にありながら収奪型農業により土壌侵食、地力劣化の著しいパラグアイ国の他の地域及び南米の類似地区において、植林CDMを活用した農村開発の普及が期待される。
成果の活用面・留意点
CERは植林地に蓄積されたCO2のモニタリングとDOEによる検証後、国連の承認を得て発行されるため、CDM事業期間中のフォローアップが重要である。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 農村開発調査領域
- 分類
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行政
- 予算区分
- 交付金(温暖化防止)
- 研究課題
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クリーン開発メカニズムの仕組みを活用した農村開発手法の開発
- 研究期間
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2008年度(2008~2010年度)
- 研究担当者
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松原 英治 ( 農村開発調査領域 )
木村 健一郎 ( 農村開発調査領域 )
花野 富夫 ( アスンシオン国立大学 )
- ほか
- 発表論文等
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国際農林水産業研究センター(2009)クリーン開発メカニズムの仕組みを活用した農村開発手法の開発報告書
- 日本語PDF
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2008_seikajouhou_A4_ja_Part2.pdf465.02 KB