シロアリのアリ塚周辺では牧草の生産力と栄養価、及び放牧牛の採食頻度が高まる
草地上の有機物が集積・分解されるアリ塚周囲では、土壌は窒素含有率が高く、牧草も高栄養・高生産力を示す。放牧牛はそれらの牧草を多頻度に採食する。このことは一般的にタンパク供給力が低い熱帯草地において、アリ塚の分布が放牧牛の採食行動、特にタンパク質等の栄養摂取に重要な役割を果たすことを示唆する。
背景・ねらい
熱帯地域の有機物の分解や養分循環にシロアリは中心的役割を果たすことが知られている。しかし、草地においてはシロアリのアリ塚は草地荒廃の指標の一つと考えられてきた。そこで熱帯草地の養分循環システムにおいてシロアリが果たす役割を解明するため、ブラジルEMBRAPA肉牛研究センターの農牧輪換試験草地に分布するシロアリCormitermes cumulansのアリ塚を対象として、その塚隣接地と遠隔地の土壌の肥沃度、優占牧草Brachialia decumbensの乾物生産量と栄養特性、放牧牛の採食訪問頻度を比較調査した。そのことにより熱帯草地の養分循環に関わる生態学的要因を解明し、農牧輪換草地の土壌肥沃度を持続的に維持するための合理的草地管理技術の開発に資する。
成果の内容・特徴
- アリ塚内の全窒素、全炭素割合は周辺土壌より高い(表1 )。周辺土壌においては、下層土は塚に近づくにつれ全窒素、全炭素割合とも高くなる。上層土では明瞭な傾向は認められないが、これは上層土では豊富な牧草根により養分の吸収が速いためと考えられる。
- 牧草の乾物生産量は、塚隣接地が遠隔地より高い(図1)。
- 単位面積当たりの牧草の粗タンパク生産速度は、塚隣接地が遠隔地より著しく高い(図2)。
- 放牧牛は塚隣接地の高タンパク、高生産力の牧草を、遠隔地の牧草より多頻度に採食する(図3)。
- 粗タンパク含量の低いC4イネ科草から構成され、マメ科牧草の維持が困難な熱帯草地において、アリ塚の分布は周辺牧草の生産力と粗タンパク含量の増大、及び放牧牛の採食行動、特にタンパク質等の栄養摂取に重要な影響を及ぼし、家畜生産に寄与していることが示唆される。
- アリ塚周辺は、土- 草- 家畜間のエネルギー転流速度・物質循環速度が高いホットスポットと考えられる。
成果の活用面・留意点
- 熱帯草地におけるシロアリの持つ養分循環機能を保全・活用した草地土壌養分の持続的維持管理技術開発の参考となる。
- 熱帯草地生態系の生産者- 消費者- 分解者間の相互作用機序解明の参考となる。
具体的データ
- Affiliation
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国際農研 畜産草地部
- 分類
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研究
- 予算区分
- 国際プロ〔農牧輪換〕
- 研究課題
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持続的農牧輪換システムにおける草地利用・管理技術の開発- 農牧輪換システムにおける熱帯草地の特性評価
- 研究期間
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2002 年度(2001 ~ 2002 年度)
- 研究担当者
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福田 栄紀 ( 畜産草地部 )
- ほか
- 発表論文等
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福田栄紀, Manuel C. M. Macedo, Mamede J. Borges, Gustavo M. Pitaluga (2003): ブラジル亜熱帯草地に分布するシロアリ塚が牧草の生育と放牧牛の採食行動に及ぼす影響. 日本草地学会誌, 49 (別), 24-25.
- 日本語PDF
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