ブラジル南東部におけるハキリアリの分布と密度 ~被害拡大の可能性~
ブラジル南東部における農業害虫としてのハキリアリの分布と密度の調査から、この地域で分布していること及び、調査地域北西部で被害が深刻である点が判明した。しかしその分布拡大から、今後は地域全域で本害虫による被害が深刻化することが懸念される。
背景・ねらい
ハキリアリの分布と密度の詳しい調査は極めて少なく、どの地域でどれだけこのアリにより農業に被害がもたらされているか不明である。ブラジル南東部4州で行った調査をもとに、この地域におけるハキリアリによる被害推定を試みた。また、過去における同地域の調査結果と比較することで、ハキリアリの分布の変化を明らかにし、今後の被害発生の予測を行った。
成果の内容・特徴
ブラジル南東部において、任意歩行法、双眼鏡による眼視法、ベルト・トランセクト法のいずれかにより、ハキリアリ(図1)の分布と密度調査を行い(図2)。次の結果を得た。
- サンパウロ州南西部とパラナ州北部では、熱帯性ハキリアリ(Ab、Ac、Al)の密度が高く(最大45巣/ha)、この地域でのハキリアリ被害が大変大きい(図3)。一方、パラナ州南部とサンタ・カタリーナ州全地域では低密度(0から1巣/ha)で温帯性ハキリアリ(Af、Ah、As)が分布していた。この程度の密度では大きな被害は与えていないと考えられる。
- 本調査と10年前までに行われた調査の結果を比較すると、ハキリアリは次のように分布を拡大していることが推定できる。サンパウロ州北西部よりパラナ州北西部に熱帯性のハキリアリが進入し、そこで増加してきた。一方温帯性のハキリアリは、、リオ・グランデ・ド・スル州北部よりサンタ・カタリーナ州南部に侵入してきた。このまま分布が推移した場合、この両ハキリアリはパラナ州中部あたりでやがて出会い、そこが熱帯性ハキリアリと温帯性ハキリアリの分布の境界線となると考えられる。
- このようなハキリアリの分布の拡大から、現在その分布密度が低くそれによる被害がない地域でも、今後ハキリアリが侵入し被害が大きくなる可能性が示唆される。特にパラナ州では、北部以外でハキリアリの密度が低いのは、畑作によって毎年土地が耕され、ハキリアリの初期巣が攪乱破壊されているためと考えられる。今後不耕起の導入を推進した場合、侵入してきたハキリアリの初期巣への攪乱がなくなり、その結果この地域でハキリアリが増加して農業に被害を及ぼす可能性が懸念される。
成果の活用面・留意点
- ハキリアリの密度が高いサンパウロ州南西部とパラナ州北西部では、積極的なハキリアリ防除が必要である。ことにこの地方で増加している草本収穫性のAcromyrmex balzaniとAtta capiguaraは難防除性であり、この種には要注意である。
- 現在ハキリアリの密度が極めて低く、農業上の問題は起こっていないとされたパラナ州北東部及び南部、サンタ・カタリーナ州全域でも、ハキリアリが侵入しそこで増加する可能性があり、今後の注意が必要である。
具体的データ
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Acromyrmex balzani(上左図、Ab)、A. fracticornis(上左図、Af)、A. heyeri(上中図、Ah)、Atta capiguara(上右図、Ac)、A. laevigata(上中図、Al)、A. sexdens(上右図、As)。英字1文字で表された都市は図2に同じ。図中のAsは、A. sexdens piriventrisという亜種に分類されている。
- Affiliation
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国際農研 生産利用部
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サンパウロ州立パウリスタ大学ボツカツ校
- 分類
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研究
- 予算区分
- 経常
- 研究課題
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南米におけるハキリアリ被害の実態解明とその防除
- 研究期間
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平成8年度(平成4~8年度)
- 研究担当者
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市瀬 克也 ( 生産利用部 )
FORTI Luiz Carlos ( サンパウロ州立パウリスタ大学ボツカツ校 )
- ほか
- 発表論文等
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Forti, L. C. and K. Ichinose (1994) Expanção de Atta capiguara Gonçalves; 1944, (Hymenoptera, Formicidae) para o norte do Estado do Paraná e os problemas ocasionados. The Fourth International Symposium on Pest Ants, p72.
- 日本語PDF
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1996_07_A3_ja.pdf1.1 MB