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995. 地球温暖化は加速しているのか

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995. 地球温暖化は加速しているのか

 

欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2024年3月、世界気温は記録的な高さとなり、10か月連続で月別気温の最高値を観測したと発表しました。

2024年3月の平均気温は、1991-2020年の3月平均気温よりも073℃高い14.14℃と、これまで最も温かい3月であった2016年の記録を0.10℃更新し、10か月連続で月別気温最高値を観測しました。1850-1900年の産業革命期と比べても1.68℃高い値をとりました。海水温は21.07°Cと、2024年2月の 21.06°C というこれまでの最高気温記録を僅かながらも更新しました。

 

世界の気候学者は世界平均気温トレンドについて注目しており、とりわけ過去1年間、地球温暖化が予測以上に加速しているかどうかの議論がさかんに行われています。気候変動の科学と政策を専門とする英国を拠点とするウェブサイトCarbon Briefが、その背景を説明しています。

きっかけの一つは、元NASAの科学者であるJames Hansen博士らが、2022年12月に発表した査読前の論文原稿でした(のちに査読され2023年公表) 。Hansen博士らは、今後30年間の温暖化のペースが10年毎に0.27℃ ―0.36℃ と、1970年代以降のトレンド比で50-100%加速すると発表しました。こうした予測と2023年に観測された異常に高温な気温が、科学者および一般市民も巻き込んで、温暖化が加速する可能性について議論を巻き起こしています。

実際、1970年から2008年の間、世界は10年ごとに0.18℃の気温上昇を経験しました。しかし、近年、気温上昇率はこの長期的トレンドを超え、過去15年間の観測データは10年ごとに0.3℃気温上昇と、1970年代に比べて速度が2倍になっていることを示唆しています。

科学者らは、温暖化の速度上昇に貢献した要因をつきとめようと試みています。過去数十年間にわたる大気汚染の解消、2020年の船舶用燃料油中の硫黄分濃度規制強化による大気中エアロゾルの減少、約11年の太陽活動周期ピーク、2022年のフンガトンガ火山噴火の影響、といった説に加え、強力なエルニーニョ現象を指摘する研究者もいます。

Carbon BriefのZeke Hausfather博士は、こうしたエルニーニョ・ラニーニャや火山噴火、太陽活動周期の変動、といった自然要因を除いたとしても、15年という短期の観測から温暖化の速度について結論付けるのは性急だと警告します。実際、1998年から2012年の15年間、気候モデル予測に反し、温暖化が一時停止したかのように観測された時期には、研究者やメディアも巻き込んで原因究明が行われました。この際の気候モデル予測値と観測値の乖離の原因は複数指摘されており、自然の変動要因(海洋による熱吸収など)や観測手法の変更(船舶のエンジン室から自動観測ブイ)、観測点の密度が低い北極地域などを除いた不完全な比較、などが原因として指摘されました。

短期的な観測から温暖化加速化を結論付けることは回避すべき一方、現在世界が経験している温暖化の加速は自然変動のみで説明できない根拠もあります。海洋熱量や地球の熱収支に関する衛星観測値は温暖化加速を示唆しています。

実際、こうした近年の温暖化は、気候変動モデルの予測とほぼ整合的です。例えばIPCC AR6のSSP2-4.5シナリオ(SSP2-4.5:中道的な発展の下で気候政策を導入。21 世紀末までの昇温は約 2.7℃)は、2015-2050年の10年ごとに0.24℃(0.17℃-0.34℃)の温暖化を予測しており、これは1970年代以来の温暖化に比べ26%早いペースに相当します。このことは、世界の温暖化の原因を人為的な活動に求める気候モデルの信頼性を示しています。

ただし、今後も寒冷な気温を観測する年がないわけではなく、Hausfather博士は、ラニーニャ現象により、2025年は近年の記録的な平均気温よりも低くなる可能性を指摘しました。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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