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914. 農業従事者が直面する危険な高温多湿条件

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914. 農業従事者が直面する危険な高温多湿条件


今年のCOP28では、気候変動の人の健康に対するインパクトに対する対応策の議論が主要アジェンダの一つとなっています。

毎年のように世界各地で観測される記録的高温ですが、その危険度も頻度も増えつつあります。同じ気温でも空気中の湿気の程度によって人間の体感温度は異なり特に蒸し暑い日の野外作業は体に堪えるものです。

人間は熱いと汗とともに余分な体温を逃がすことで体を冷やしています。しかし空気中に多湿条件では蒸発効率が低下するため不快な蒸し暑さに耐えざるを得ません。極端気象の人々への影響は社会経済学的要因や職業形態よっても異なり、脆弱な社会層ほど重い負荷を被っているのが実情です。

 

熱帯および亜熱帯の農業地帯、三角州や海岸沿岸地域の住民は特に高い確率で高温多湿に晒されています。これら地域を含め農業地帯の労働者が作物の栽培期間中に直面する危険な高温多湿日数について研究した論文を紹介します。 

研究チームは、1979年~2019年の湿球温度の日別最高値データ、地域別・作物別の栽培カレンダーと12作物の作付面積データを用い、栽培期間における極端な高温多湿日数を定量化しました。気温、水蒸気量、風況を用いて計測する湿球温度(wet bulb temperature)において人が生活活動に困難を感じるTw30℃は、主に野外作業を強いられる労働集約的な農作業には適さないとし、農作業の際の体感温度(real feel)は高く、農業従事者はTw27℃以下が安全な湿球温度であるとしました。

同時に、研究は多くの主要農業地域が年間ですでに3か月以上にわたりTw27℃以上の気候に直面していることを明らかにしました。アマゾンやコロンビア北部、紅海及びペルシャ湾海岸を含むメキシコの一部、マレーシアとインドネシアの大部分がこれに当てはまります。アフリカ諸国のセネガル、コートジボワール、ナイジェリア、カメルーン及びオーストラリア北部地域においても年間2か月以上Tw27℃以上の極端気象が続いているとしました。

作物別においては、農業従事者が極端気候に最も晒されている傾向が高いのは、世界有数の主食作物のコメとトウモロコシ栽培地域に該当するとされました。2001年―2019年の期間、両作物の栽培期間中に危険な高温多湿状況に晒される機会が、1979―2000年比で、コメで1.8倍、トウモロコシで1.9倍と増加していることが分かりました。農作業者にとって危険日数が最多だったのがバングラデシュで60日間、そのほか代表的なコメの産地であるベトナムのメコンデルタ、ミャンマーのイラワジデルタ、インドネシアやマレーシア、メキシコ、そしてアマゾンの沿岸地域でも、農業労働者が危険な気象条件下で農作業を強いられていました。2番目に多かったトウモロコシ栽培地域については、パキスタン、メコンデルタ、コロンビア北部、ベネズエラ、フィリピン、メキシコやイラン沿岸部において、人々は厳しい労働環境で農作業をしていることが分かりました。その他ソルガム、ダイズ、ジャガイモ、ミレット、ヤム栽培においても顕著な影響を示しました。


年々頻度を増す極端気象下の農作業は労働者にとってますます厳しいものなりそうです。極度な高温湿度条件は生産性の低下、労働時間短縮による収入の減少に繋がり、さらには農産物の価格上昇を招きかねません。持続可能な食料システムを構築し、食料の安全保障を確保に向けて実態を明確にし、定量化した今回のような研究は、政策決定に重要な情報を提供します。

 


(参考文献)
Connor D Diaz et al 2023 Environ. Res. Commun. 5 115013
DOI 10.1088/2515-7620/ad028d
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2515-7620/ad028d

 


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)

 

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