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487. IPCC - 気候変動に強靭な開発の必要性

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487. IPCC - 気候変動に強靭な開発の必要性

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は、1988年に設立された政府間組織で、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与える役割を担っています。世界中の科学者の協力の下、出版された文献(科学誌に掲載された論文等)に基づいて定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供しています。 

昨年から今年にかけ、第6次評価報告書(AR6)の作業部会による報告書が公表されることになっています。昨年8月、第1作業部会(WG1)「 気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価の報告書」が公表され、「気候変動における人為的な影響は疑いの余地がない」と強い論調で主張したことが話題となりました。

このたび、2月14日から、第2作業部会(WG2)「 気候変動に対する社会経済及び自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、並びに気候変動への適応のオプションについての評価による気候変動適応に関する報告書」について、 政策策定者向けサマリーが各国関係者による協議の上採択され、28日に公表されました。

人為的な活動に起因する気候変動は、自然の気候の変動を超え、陸域・淡水・海岸・海洋エコシステムの構造・種の地理的分布・季節的ライフサイクルのタイミング(生物季節学:phenology)に負のインパクトをもたらし、最も脆弱な社会層やシステムが最も影響を受けています。極端な気象・気候現象はしばし自然・人々の適応能力を超えた不可逆的なインパクトをもたらしています。

気候変動は干ばつ・洪水・熱波などの異常現象の頻度と強度を増加させ、とりわけアフリカ・アジア・中南米・島嶼国・北極地域における食料栄養安全保障を脅かしています。気温上昇は土壌の状態やエコシステムサービスを悪化させ、病害虫への脆弱性を増し、食料生産性を低下させます。気候変動への不適応(maladaptation)は食料・水安全保障を脅かし、SDGs達成に向けた努力を阻みます。世界的に農業生産性は向上してきたものの、高緯度地域では生産性に正の影響を受ける一方で、中・低緯度地域は負の影響を受け、過去50年間にわたり気候変動が生産性の成長率を鈍化させているという中程度の信頼性によるエビデンスもあります。食料生産やアクセスの喪失は、食生活の多様性の減少と合わせ、とりわけ脆弱な社会層や小規模農民・低所得層の間で栄養不良を増加させます。世界人口の半数近くが、気候要因・気候以外の双方の要因により、年間に極端な水不足を経験しているとの中程度の信頼性によるエビデンスもあります。

報告書は、気候変動・エコシステム劣化や生物多様性喪失・人間社会の結合システム(coupled systems)に着目し、気候変動のインパクトとリスクとそれらへの適応を、非持続的な自然資源の消費、土地・エコシステム劣化、急速な都市化、人口動態のシフト、社会経済格差とパンデミック、という気候変動以外の世界的な問題の展開に照らして評価しました。そしてこれらの相互関係から生まれるリスクを分析する一方、気候に強靭な開発(Climate Resilient Development)に向け、生物多様性を保全し、適応・緩和とSDGs達成を両立するためのとりわけエネルギー、土地・海洋・海岸・淡水エコシステム、都市・農村インフラ、産業と社会転換にむけた政策コミットメント・ガバナンスを提案します。

報告書の中でも農林水産業部門の気候変動適応を取り扱う第5章Food, Fibre, and other Ecosystem Productsにおいて、国際農研の研究者がかかわった途上国の現場からの研究成果  ― アジアデルタ地域におけるサイクロン被害の食料安全保障への影響サバクトビバッタへの適応策の必要性牧畜民による気候変動適応策、木質植物の家畜飼料としての有効性耕畜連携アグロフォレストリーシステムにおける適応策採択条件、 ― も、エビデンスとして引用されています。 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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