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470. 氷河の融解が生態系や農業基盤にもたらしうるインパクト

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470. 氷河の融解が生態系や農業基盤にもたらしうるインパクト

2021-2022年期の日本は例年よりも寒く感じます。米国フロリダでもここ数日は寒波でイグアナが気絶して木から降ってきていると伝えられています。 世界的には、2021年はラニーニャ現象の影響で、史上6-7番目の暑さであったと報告されています。

その一方で、南極・北極では氷河の融解は確実に進行しているようです。 

氷河の融解は大量の真水を放出し、その融解の程度に応じて、周囲の海洋の物理・生物学的条件に大きな影響をもたらします。例えば、南極半島東岸に存在するラーセンC棚氷から2017年に分離したことが確認された氷塊A68は、2021年初までに235mから168mと32%も薄くなり、周辺の海に152ギガトンの真水を放出したと推計され、プランクトンの発生や捕食者の生存条件を大きく変容させる可能性を持つとのことです。 

ノルウェーのスバルバル諸島でも、近年異常な高温が記録されていますが、気温上昇に伴い、氷河の融解の加速化の可能性が議論されています。スバルバル諸島には、グローバル作物多様性トラスト(GCDT)によって、2008年から世界各地の種子を保管しているスバルバル世界種子貯蔵庫(Svalbard Global Seed Vault)も設置されています。グローバル作物多様性トラストは、2004年、世界レベルの食糧安全保障のために、国連食糧農業機関(FAO)とCGIARの連携によって、作物多様性の保存とその利用可能性の確保を目的とする独立した国際機関として設立されました。世界種子貯蔵庫は、何らかの地球規模の大惨事の際、農業を立て直す手段として、種子などの状態で400万種の農業作物を貯蔵できるように設計されています。しかし、 この貯蔵庫は2016年、永久凍土の融解によって水が流れ込み、2000万ユーロ(約25億円)相当の修復作業が必要となりました。氷河の融解の加速化といった気候状況が貯蔵庫の維持に支障をきたすのであれば、作物多様性に基づく農業基盤そのものを脅かしかねません。

今日の食料システムを象徴する少数の作物・品種に依存する商業的モノカルチャーですが、気候変動の加速化や植物病害虫に対する脆弱性が懸念されています。多くの研究者や企業・組織が、変わりゆく世界に対応していく上で農業遺伝資源の多様性の保全を重視しています。

(参考文献)
Braakmann-Folgmann A et al, Observing the disintegration of the A68A iceberg from space, Remote Sensing of Environment (2022). DOI: 10.1016/j.rse.2021.112855
Emily C. Geyman et al, Historical glacier change on Svalbard predicts doubling of mass loss by 2100, Nature (2022). DOI: 10.1038/s41586-021-04314-4
Twila A. Moon, Future ice loss captured by historical snapshots, Nature (2022). DOI: 10.1038/d41586-022-00046-1

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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