媒介虫によるグリーニング病の拡散動態を予測する個体ベースモデル
個体ベースモデルの枠組みに基づいて開発したモデルを用いることで、媒介虫ミカンキジラミによるグリーニング病の拡散の様子をシミュレートできる。
背景・ねらい
カンキツの病害であるグリーニング病は、感染後の治療が不可能である。従って、ベトナム国南部のような多発地域において、本病の圃場内でのまん延を阻止するためには、媒介虫であるミカンキジラミを生態に基づき合理的に防除する必要がある。そのためには、圃場内のミカンキジラミとグリーニング病の拡散動態を定量的に示し、感染リスクを評価する技術が必要である。そこで、ミカンキジラミの移動分散による圃場内のグリーニング病の拡散動態を予測するためのシミュレーションモデルを開発する。
成果の内容・特徴
- 本モデルは、格子モデルなどの既存の拡散動態モデルと異なり、仮想圃場内のカンキツ樹とミカンキジラミの全個体に対して、生理状態の変化や移動分散の様式などの規則をパラメータとしてそれぞれに与えることができる(表1)。そのため、各個体がパラメータに従って個別に行動した結果の累積として、集団である仮想圃場全体の病気の拡散動態をより現実に近い形で出力できる。個体ベースモデルを開発するための基礎となる、C言語による仮想個体の生成技術は、http://gi.ics.nara-wu.ac.jp/~takasu/research/IBM/ibm.htmlで公開されている。
- 本モデルでは、4つに分けた感染拡大過程(a.保毒虫に加害された樹の一部にグリーニング病が潜伏感染。b.潜伏期間を経た樹が発病。c.発病樹から保毒虫が出現。d.保毒虫が移動分散。)からなる伝染環を、実験結果から推定したパラメータに基づきコンピュータ内で演算することで、圃場内の病勢進展をシミュレートする。(図1)。
- グリーニング病がまん延した圃場が近隣にあるベトナム国南部の新規定植カンキツ園をモデル内で仮想し、罹病樹数の経時変化を実際の調査データと比較すると、モデルの予測結果は現実の病気の拡散動態と同様の傾向を示す(図2)。
- 本モデルは、カンキツ樹やミカンキジラミの個体ごとに条件を設定することが可能であるため、防除技術を想定して宿主や媒介虫の個体ごとのパラメータを変更することで、様々な防除法を組み合わせたときの相乗効果を検討することができ、有効な防除手段の組み合わせを、野外実験によらず短時間で安価に検討できる。
成果の活用面・留意点
- 本モデルを用いて見出された、有効な防除手段の組み合わせを普及させる前に、実証試験を行う必要がある。
- 本モデルを用いて、グリーニング病の拡散速度に大きな影響を及ぼすパラメータを見出すことで、新たな防除技術を開発する手掛かりが得られる。
- 本モデルはパラメータを変えることで、他の虫媒性作物病害の拡散動態をシミュレートできる。
具体的データ
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表1 モデルに用いるパラメータ
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個体ベースモデルでは、カンキツ樹と媒介虫の各個体に、位置や生理状態を属性として与えることができる。 -
シミュレーションの条件は右表を参照する。
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究B
- 予算区分
- 運営費交付金[グリーニング病]
- 研究課題
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激発地におけるカンキツグリーニング病管理技術の開発
- 研究期間
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2006~2010年度
- 研究担当者
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小堀 陽一 ( 生産環境・畜産領域 )
大藤 泰雄 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
中田 唯文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
高須 夫悟 ( 奈良女子大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Kobori et al. (2011) JIRCAS Working Report No.72
Kobori et al. (2011) Appl. Entomol. Zool. 46:27–30.
- 日本語PDF
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2010_seikajouhou_A4_ja_Part30.pdf111.19 KB