水産増養殖における研究協力のこれまでとこれから

国際農林水産業研究センター研究会報告集
ISSN 13406094
書誌レコードID(総合目録DB) AN10446728
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我が国沿岸海域の開発を促進するために,これまでにもさまざまな事業が行われ,漁場整備なための漁礁の設置,栽培漁業に代表される有用魚類の稚魚、放流等が実施されている。
また,最近ではこれまでに開発された技術を総括し,新しい発想による海洋牧場の開発研究が行われるなど,多くの有益な施策がなされ,それぞれについて大きな成果が上げられている。
一方,このような背景の中で漁業資源を科学的,合理的に管理するための管理型漁業の確立も重要な課題として取り上げられ,水産の技術全般にわたって新たな試みがなされている。
我が国は,これまで世界の水産技術をリードする立場にあったが, これからもその責務は大きく,とくに開発途上国から寄せられている期待は極めて大きい。海洋の資源, とくに高級魚類は長年に亙る過剰とも思われる漁獲によってその資源は著しく減少している。そこで,1960年代の初期から,いわゆる「獲る漁業から,造る漁業へ」との構想のもとに, これまでに開発された諸技術ならびに水産以外の分野において開発された技術をも含めて活用する新しい試みがなされている。これらの事業の中でとくに重要なものとしては沿岸漁場の整備,栽培漁業,海洋牧場などがあげられる。
沿岸漁場の整備では,優れた沿岸漁場として期待される海域において,漁場の改良,拡大を計り海洋における生態系を改変することにより有用水産動植物の再生産,保護育成を計るために漁礁設置事業,増殖場造成事業,養殖場造成事業が実施されている。
栽培漁業では,人間が魚類の種苗と呼ばれる幼稚仔魚を大量に生産し,適地に放流して保護を加えながら自然の海での成長を待ち,やがてこれを漁獲する方法である。昭和38から瀬戸内海をモデル海域として,国が中心となり,地方自治体ならびに漁業者の協力のもと開始されている。その後,全国への普及を図るため,各地において事業が行われている。
このほか,サケマスのふ化放流事業も長い歴史を持ち北海道を始めとする日本各地における沿岸サケマス資源の増大に大きな成果を上げている。
海洋牧場では,いかに自然を合理的に利用し,人々の英知を活用して生産を上げるかが重要な要素である。
沿岸海域を対象とした海洋牧場の究極の姿は,これまでに開発された種々の要素技術ならびにこれから開発される新しい技術を組み合わせた複合型海洋牧場であり,その栽培漁業との相違は,栽培漁業が生物生産の工場であるのに対し,海洋牧場は特定海域の開発である。外洋を利用した海洋牧場では,例えば,クロマグロ,この魚は南西諸島周辺において産卵し,成長しながら日本近海を北上,大きく回避してカリフォルニア沿岸にまで達し, アメリカ沿岸において成育,再び日本沿岸に戻ったものが漁獲の対象になっている。この習性を利用して,日本沿岸において天然群への人工種苗の添加を行うことができれば,サケの場合と同様な成果を期待することも可能となる。このような外洋を利用した大規模牧場への構想も,有用魚類の種苗生産技術の向上とともに進展してゆくものと期待される。海洋牧場等の建設によって,新たな漁場が設定された場合には,これを合理的に管理運用して利用するシステムを確立する必要がある。
このような問題に対処するために,資源管理技術の開発が計画され,的確な資源の把握,資源管理技術の開発,これらの漁業者への普及が重要であり,調査研究の充実,その成果の的確な活用を図る努力がなされている。
我が国の水産技術は,ひと頃は獲る漁業についての評価が高く世界の技術をリードしていた。しかし,最近では世界的な傾向として水産資源の培養ならびに水産物の合理的な利用に対する関心が高まり,栽培漁業,海洋牧場を含めた培養殖ならびに水産物の利用加工技術についても,高い評価を受けている。
我が国ではすでに施策として実施されているような事業,技術も,開発途上国は言うに及ばず一部の先進国にとっても極めて重要な先端技術として受けとめられているのが現状である。これらの技術開発並びに研究成果は全世界から高く評価され,技術援助あるいは研究協力の対象となっている。
国際協力の主な対象となる開発途上国は,その国の,教育,技術レベルは様々である。したがって,これからの研究協力技術では相手国の実状を十分に理解した上で,その実情に応じた協力の内容を定めることが必要である。
刊行年月日
作成者 藤谷超
公開者 農林水産省国際農林水産業研究センター
オンライン掲載日
資源タイプ Conference Paper
4
開始ページ 1
終了ページ 6
言語 jpn

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