2023年3月ボリビア出張報告

今回のボリビア出張では、試験圃場において、研究プロジェクト全課題の進捗を確認し、問題点や今後の計画について打合せを行いました。

課題1では、PROINPAと共同で、チチカカ湖周辺、オルロ周辺、およびウユニ塩湖周辺で栽培キヌア(Chenopodium quinoa)、野生キヌア(C. quinoa ssp. melanospermum)、およびこれらの近縁野生種(C. petiolare)の種子と葉サンプルを採取しました。さらに本出張で、課題1の主要なミッションである植物の採取からデータ取得までの一連の作業をシステム化してスムーズに実施できるようにしました。

課題2では、キヌアが栽培できる限界領域の調査を実施しました。ビアチャ圃場においては栽培中のF2系統のサンプリングを行い、UMSAにおいてゲノム解析に必要な実験を現地スタッフと共に実施しゲノム解析の基盤を確立しました。
また、今回の出張ではボリビアだけでなく、ベースの育種素材として用いられている低地型キヌアの原産地チリのテムコ周辺に行き、栽培環境や利用状況などの調査を行いました。

課題3では、本プロジェクトのキヌア試験圃場などにおいてドローン空撮とあわせて収量調査を行い、収量推定技術の開発のためのデータを蓄積しました。また、ウユニ塩湖畔のキヌアの気孔開度の日変化の調査も実施しました。

課題4では、3月17日にウユニ地区チタおよびチャカラにおいて、技術移転の一環として現地ワークショップ(Dia del Campo)を開催しました。また、3月2日よりSNS(Whatsapp)を介したキヌアの技術情報共有のプラットファームを立ち上げ、運用を開始しました。また、チリ共和国テムコ周辺の栽培地における調査を行った際、キヌア栽培を担っているマプーチェ族の方々と情報交換しネットワークを構築しました。

温室完成式典

待望の大規模温室がついに完成しました。2023年3月20日は温室完成式典がPROINPA Viacha試験場で開催され、PROINPA財団や日本側の研究チームが参加しました。温室はOrkidea Andina社により建設され、式典では担当者より設備の説明がありました。この温室では側窓の開閉や温水により気温を自動で調整でき、点滴灌漑やスプリンクラー灌漑により灌水条件も自動制御できます。これにより冬季にもキヌアを栽培することができるようになるため,キヌア育種の迅速化が可能になります。

温室の説明を受けるメンバー
温室内部

ウユニ塩湖畔のキヌアの耐干性の強さの秘密に迫る

ボリビアのウユニ塩湖畔の土壌は塩濃度が高いだけでなく、年間降水量が約200mmで非常に乾燥しています。そのため、この地ではバレイショやムギ類すら栽培できず、キヌアが唯一の栽培可能な作物となっています。何故キヌアはこのような乾燥ストレスの強い条件下でも栽培できるのかの手がかりの一つを、農家圃場で生育しているキヌアの気孔開度の日変化を測定することで得ようとしています。世界屈指の高い日射強度、乾燥条件下で8時から16時まで圃場で気孔開度を測定したのですが、測定はまさに体力勝負となり、キヌアの強さを改めて感じました。

キヌアの生育・収量の簡易推定に向けて

ボリビアのキヌアは多様な環境ストレスにさらされており、ちょっとした条件で生育が不安定になるため、1つの畑の中でもキヌアの生育は不均一で、正確な生育状況や収量を把握するのが非常に困難です。そのため,我々はドローンを使って迅速かつ高精度でキヌアの生育・収量を推定できる技術の開発に取り組んでいます。2023年3月の出張中には、多様なキヌアの圃場でドローンを使ってキヌア畑の空撮を行ってきました。今後、キヌアの収量を個体ごとに測定していき、技術の開発を進めていきます。

キヌアの遺伝資源の収集

キヌアは多様な形態形質を持っているのですが、このような高い遺伝的多様性を保全することは、キヌアの育種の基盤を支える上で最重要の課題です。また、キヌアだけでなく、ボリビアではキヌアの随伴雑草で近縁野生種のアハラと呼ばれる植物も多くみられ、農家はこのアハラを栽培していないものの、圃場で実ったアハラを集めて利用しています。実際に街中ではアハラはキヌアよりも高値で取引されています。我々はこのような多様な近縁野生種も含めた遺伝資源を収集も進めています。圃場には多様な色のキヌアや脱粒性の高いものなどいろいろ発見され、まさに宝の山です。このような活動を通じて、今後の育種の基盤構築も進めています。

キヌアの栽培限界を探る

キヌアは乾燥や寒さ、塩害などにも強く、ボリビアのウユニ塩湖畔で栽培される唯一の作物です。この写真はボリビアのウユニ塩湖畔で栽培されているキヌアの畑をウユニ塩湖の方に向かって撮影したもので、奥の方にウユニ塩湖の塩が析出しているのが分かります。そしてその先には植物は何も生育していません。塩ストレスに限ってみると、まさにここがキヌアの栽培限界と言えます。我々は現地で栽培されているキヌアの植物生理と土壌などの環境条件を突き合わせることで、何故キヌアはこのような過酷な環境でも栽培できるのかを解明しようとしています。

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