低投入型稲作栽培のためのひこばえ

「持続可能な農業」とは、環境保護、経済的安定、社会的責任を重視し、さまざまな農法や技術を活用して、未来の世代にわたって安定した食料生産を目指す農業形態である。人口増加、気候変動、環境問題の進行により、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成にはこの農業形態が不可欠であるが、その実現には多くの課題が存在する。国際的な食料市場の不安定化は、小規模農家の収益を不安定にし、持続可能な農業への投資や環境負荷低減の取り組みを妨げる。さらに、気候変動は収量の減少や品質の低下を引き起こし、農業生態系のバランスを崩すリスクを増大させている。
また、アジアモンスーン地域では、農家の高齢化や離農に伴う農業労働力不足が深刻化している。特に日本では、農業従事者の平均年齢が上昇しており、新規就農者の減少が顕著である。農業従事者の減少は技術の普及や農地の適切な維持管理に支障を来す恐れがある。そのため、労働力や資源投入を抑えつつ生産性を向上させる新たな農業技術の開発が求められている。
本レポートは、こうした課題に対応する一例として「水稲再生二期作」に焦点を当て、その特徴とアジアモンスーン地域での研究・普及上の課題を検討することを目的としている。再生二期作は、最初の稲の収穫後に株元から再び生えてくる新芽(ひこばえ)を利用し、連続して稲を栽培する方法である。この方法は、耕起、代かき、播種、田植えが不要であり、資材や労働力の削減が可能である。また、ひこばえの短い生育期間により、施肥や水管理の負担が軽減される。また、地域によっては洪水期前に収穫できるため、自然災害リスクの低減にも寄与する。
再生二期作の成功には、ひこばえの発生しやすい品種の選定が重要である。また、ひこばえは一期作収穫前から発達を始めるため、一期作の段階からひこばえの生育を考慮した施肥や水管理が効果的である。一方、収穫機械による株の踏み付けがひこばえの発芽率や収量を低下させる問題や、一期作での病害虫の影響が再生二期作にも継続するといった課題も存在する。
それでも、再生二期作は従来の二期作と比較して、労働生産性の向上、環境負荷低減およびコスト削減、さらには水資源の節約や温室効果ガス排出削減といった点で優れている。しかし、現状では中国の一部を除いて普及は進んでいない。普及促進には、農家への技術指導の強化、品種改良、および栽培技術の向上、さらには、地域ごとの農業経営データの分析、損益分岐点の明確化といった取り組みが不可欠である。
これらの取り組みを通じ、再生二期作は特定の条件下で実用的な生産技術としての可能性を高め、持続可能な農業技術としての普及が促進されることが期待される。
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作成者 | 白木秀太郎 Le Thi Hoa Sen |
オンライン掲載日 | |
巻 | 5 |
DOI | https://doi.org/10.34556/gars-j.5 |
言語 | jpn |