プロジェクトの概要
2025.10.27
目的
飢餓人口の増加と農地拡大にともなう環境破壊は、どちらも世界の食料安全保障に対する脅威です。本プロジェクトでは、双方の問題解決の要になるアフリカの小規模農家に焦点を当て、水田の生産性を高める技術的解決策と森林消失が及ぼす水田生産への影響の科学的エビデンスを同時に提供することで、不安定な農業生産と環境破壊の負の連鎖に歯止めをかけ、持続的な食料生産システムに転換できることを明らかにします。得られた実践的成果をもとに、同様のアプローチを波及させ、アフリカの貧困削減・栄養改善・持続的農業の推進に貢献します。
内容
課題1.生産性向上と環境負荷軽減を両立する水田の高度利用技術の開発
P-dippingが水稲の生育(湛水)期間を短縮する効果に着目し、同技術の採用が、水稲の少肥増収だけではなく、湛水条件で発生するメタン(水田からの主な温室効果ガス(GHG))排出の抑制(20~30%減)と水稲収穫後の裏作生産(20%増収)にも効果をもつことを実証します。裏作には、研究題目2との連携を見据え、現金収入や微量栄養素の供給源としても有望なアブラナ科野菜を利用します。得られた成果は、環境負荷を減らしつつ、水稲と裏作の双方の生産性を高める水田の高度利用法として技術マニュアルを作成します。
課題2.土壌微生物による野菜・マメ科作物の生育促進技術の開発
水田裏作の生産性をさらに増強させる将来的な実用化技術として、アブラナ科野菜の生育促進に効果をもつ糸状菌Colletotrichum tofieldiae (Ct)に加え、相手国機関CNREが選抜したインゲンマメ(Phaseolus vulgaris)の収量を高める在来根粒菌を利用します。さらに、これらの菌株との共接種で相乗効果をもたらす新規微生物を探索します。農家圃場での反復検証を経て、アブラナ科野菜とマメ科作物の収量を20%増加できる微生物利用技術を開発します。
課題3.開発技術の普及手法の確立と農家の厚生指標および土地利用に及ぼすインパクト評価
肥料小売店を含めた情報伝播に重要な働きをもつインフルエンサーの特定や技術採用を促すクラスター効果および農家間の社会的紐帯の解明を通して、P-dipping等の生産技術を効果的に拡大できる新たな普及手法を開発します。加えて、水田での生産性や作付多様性の向上が農家の厚生指標と土地利用に及ぼす効果、ならびに、同効果に介在する農家の市場志向性や市場の役割を明らかにします。
課題4.森林の水源涵養機能が流域の水田生産に与える定量的評価
下流の水田への土砂流入防止や水・養分の安定供給によって、森林が水田の安定生産を支え、持続的な食料生産に不可欠な役割を果たす構図を「見える化」します。具体的には、森林劣化程度が異なる小流域を対象に、植生や地形など流域属性を整備し、経時的な水文観測によって広域の降雨流出モデルを構築します。得られたモデルで、河川の氾濫・渇水リスク、ならびに、水田に流入する土砂や養分量の変化を解析し、森林劣化が水田生産に及ぼす影響や経済的損失を定量的に示します。