8月31日付Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America (PNAS)に、国際農研と国際コムギ・トウモロコシ改良センター(CIMMYT)、バスク大学、日本大学生物資源科学部の共著論文、”Enlisting wild grass genes to combat nitrification in wheat farming: A nature-based solution”が掲載され、8月23日(米国時間)オンラインで公開されました。
本論文では、世界初となる窒素肥料の量を減らしても高い生産性を示す生物的硝化抑制(BNI)強化コムギの開発に成功したことを報告しています。
開発したBNI強化コムギは、高いBNI能を持つ野生コムギ近縁種であるLeymus racemosusとの属間交配により、多収品種にBNI能を付与した系統です。この過程で、Leymus racemosusの持つBNI能を制御する染色体領域を特定し、交配によるBNI能の導入を可能としました。
また、BNI強化コムギは、圃場試験において、土壌中のアンモニウムの硝化を遅らせることで、土壌のアンモニウム濃度を向上させ、低窒素環境でもコムギの生産性を高めることが確認されました。
世界の約2億2500万haものコムギ生産地域に向け、様々なコムギ品種にLeymus racemosus由来のBNI能を付加することで、硝化による農地からの温室効果ガス排出や水質汚染を低減し、生産性を向上させながら、地球温暖化を緩和することが期待できます。
BNI能を強化した作物の活用による生産力向上と持続性の両立は、「温室効果ガスと水質汚濁物質を削減する地球にやさしいスーパー品種等の開発・普及」として期待されています(みどりの食料システム戦略:令和3年5月12日 農林水産省策定)。
国際農研は、世界の共同研究機関と共に、地球にやさしく高効率なBNI強化コムギを活用した食料システムの開発を今後も推進していきます。