高いさび病抵抗性を有するダイズ新品種「Doncella INTA-JIRCAS」を開発

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実用化連携
要約

アルゼンチン国立農牧技術院(INTA)と国際農研が共同開発し、アルゼンチンで登録したダイズ新品種「Doncella INTA-JIRCAS」は、ダイズさび病に対する3つの抵抗性遺伝子の導入により、高いさび病抵抗性を有する。

背景・ねらい

ダイズさび病は、ダイズの落葉を早め、収穫量を減少させるダイズ病害である。南米では、2001年にパラグアイで最初に確認されて以降、ブラジルやアルゼンチンなどの主要なダイズ生産地域に蔓延し、国際市場への安定的供給を行う上で重大な阻害要因となっている。現地農家は殺菌剤を使ってダイズさび病の防除を行っているが、さび病菌の殺菌剤耐性が増大したことにより、防除コストや環境負荷の増大が懸念されている。一方、宿主となるダイズには、これまでダイズさび病に抵抗性を示す8種の遺伝子(Rpp)が同定されている。また、これらの遺伝子を集積して導入したダイズは、病原性の異なる多くのさび病菌種に対して抵抗性となるだけではなく、抵抗性の程度も高くなることが明らかになっている。国際農研が育成した抵抗性遺伝子集積系統を用いて、アルゼンチンに適応した高いさび病抵抗性を有するダイズ品種を開発し、同国におけるダイズ生産の安定化に貢献する。

 

成果の内容・特徴

  1. 新品種「Doncella INTA-JIRCAS」は、国際農研が育成した3つの抵抗性遺伝子(Rpp2, Rpp4, Rpp5)を有するさび病抵抗性系統「No6-12-1」を一回親*、アルゼンチン国立農牧技術院(INTA)の品種「ALIM5.09」を反復親**とし、DNAマーカー選抜を利用した戻し交配育種によって開発された品種であり、アルゼンチン国において令和4年4月25日付で登録されている(品種登録番号:4304)。
  2. 圃場における罹病度(病斑面積率)は、反復親・対照品種であるALIM5.09や対照品種であるINTA Paraná 629、INTA Paraná 5500では30%を超えるのに対し、新品種では1%以下である(図1)。また、人為接種により感染させた場合でも、高い抵抗性を示し、胞子形成が見られない。
  3. 新品種は、ALIM5.09と伸育性、花色(胚軸色)、毛じ色(茎および莢)、葉形、種皮色、臍の色、草丈、種子脂質含有率、種子粗タンパク含有率、ダイズ茎かいよう病抵抗性、除草剤抵抗性について同等の特性を有する(表1)。
  4. 栽培地や栽培年の環境の変化によって収量は変化するが、新品種は2017ー2018年のParana試験場の環境下で対照品種ALIM5.09よりも有意に高い傾向にある(表1)。


*一回親:戻し交配育種において、最初の交配のみに使用される親を指す。新品種に取り込ませたい特性を持つ。
**反復親:戻し交配育種において、戻し交配に連続して使用される親を指す。特性を取り込ませたい品種。

 

成果の活用面・留意点

  1. 新品種ではさび病感染もさび病胞子の生産も抑えられているため、大幅に殺菌剤使用を削減できる可能性がある。
  2. アルゼンチンのミシオネス州では、2020年度からグリホサート類の特定地域における使用を禁止する法律が施行され、普及率97%以上を占める除草剤耐性組換えダイズ品種の優位性が低下するため、非組み換えである本新品種が普及する可能性がある。
  3. 新品種を長く活用するには、抵抗性を打破する新たなさび病菌の出現を抑える必要性があるため、適切な量と頻度で殺菌剤を併用することが望ましい。

 

具体的データ

  1.  

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

情報

農産物安定生産

食料安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2012~2022年度

研究担当者

山中 直樹 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001770

De Lucia Adrián ( アルゼンチン国立農牧技術院 )

Heck Mónica ( アルゼンチン国立農牧技術院 )

ほか
発表論文等

アルゼンチン農牧水産省 国立種子研究所(INASE) 品種登録番号4304(登録日:2022年4月25日)

Kato et al. (2022) Tropical Plant Pathology 47: 599–607.
https://doi.org/10.1007/s40858-022-00516-x

Yamanaka and Hossain (2019) Plant Breeding 138: 686–695.
https://doi.org/10.1111/pbr.12720

日本語PDF

2022_C01_ja.pdf1.54 MB

English PDF

2022_C01_en.pdf993.34 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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