植物の種子の中には「胚」と呼ばれる組織があります。「胚」は、種子の胚乳という部分から養分を吸収して育ち、発芽し根を伸ばして植物体になります。通常、1つの種子から1個体の植物体が繁殖され、このような種子を「単胚種子」と呼びます。これに対し、1つの種子から複数の植物体を繁殖する種子もあり、これを「多胚種子」と呼びます。
マンゴーには、「単胚種子」を持つ品種と「多胚種子」を持つ品種の両方が存在し、この形質は品種を分類、利用、繁殖する上で大切です。一般に、マンゴーの発祥地であるインドとその周辺地域を原産とする品種には「単胚性」が多く、東南アジア原産の品種には「多胚性」が多くなっています。
「単胚種子」の胚は交雑によって生じたもので、母親と父親の両方の遺伝情報を持ち、生じる植物体は雑種であり、親と同じ実はつけません。
一方、「多胚種子」が持つ複数の胚では、交雑によって生じた胚(雑種)は1つだけです。残りの胚は「珠心胚」といわれる母親の遺伝情報のみを持つ胚で、いわゆる栄養繁殖したクローン植物体となり、母親と同じ実をつけます。
特定のマンゴー品種の苗を増やすには、一般的には接ぎ木や挿し木で栄養繁殖をします。しかし、多胚性品種の場合は、種子から育った「実生苗」から母親のクローン個体を選んで苗として利用することもできます。一方で、新しい品種を育成したい場合は、交雑胚起源の植物体を素材として選抜する必要があります。