2014年若手外国人農林水産研究者表彰報告

平成26年11月27日、秋葉原コンベンションホールにおいて若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産技術会議主催)の表彰式典が挙行されました。式典は、まず表彰式において、三輪睿太郎農林水産技術会議会長の主賓挨拶に続き、来賓の皆様の挨拶、選考委員会の貝沼圭二座長より審査経緯の報告をいただきました。また、賞の授与では、三輪会長より表彰状が、岩永勝JIRCAS理事長より奨励金の目録が受賞者に授与されました。

平成26年11月27日、秋葉原コンベンションホールにおいて若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産技術会議主催)の表彰式典が挙行されました。式典は、まず表彰式において、三輪睿太郎農林水産技術会議会長の主賓挨拶に続き、来賓の皆様の挨拶、選考委員会の貝沼圭二座長より審査経緯の報告をいただきました。また、賞の授与では、三輪会長より表彰状が、岩永勝JIRCAS理事長より奨励金の目録が受賞者に授与されました。

表彰式に引き続き受賞者講演が行われ、受賞者による研究成果の発表が行われ、つつがなく式典を終えることができました。

本賞は、開発途上地域のための農林水産業及び関連産業に関する研究開発に優れた功績をあげている又はあげつつある若手外国人研究者を農林水産技術会議会長が表彰するもので、今回が8回目です。受賞者と業績名は、次のとおりです。

受賞者と業績名(敬称略)

Dr. Giriraj AMARNATH (ギリラジ アマルナート)
国籍:インド
所属:国際水管理研究所 (IWMI)

業績:アジアとアフリカにおける小農のための農業の洪水リスクに対する回復力と適応力の向上に関する研究

 

Dr. Giriraj AMARNATH

[業績概要]

受賞者の主たる研究は、氾濫リスクの低減および適応措置策定のための氾濫パターンの時間的、空間的な特性付けを企図した衛星データ活用の可能性である。非常事態へ迅速に対応するために、洪水の範囲を速やかに探索する洪水マッピング・分析ツールを開発し、ユーザーが無償でこのツールを利用できるようにした。災害リスクの低減と開発投資の判断における優先順位に関する情報発信のため、地球規模での洪水リスク「ホットスポット」分析を実施することにより、自然災害のリスクが特に高い場所を特定した。

また、受賞者は共同主任研究者としてアフリカの小規模農家を支援する革新的なプロジェクトにも参画した。このプロジェクトは、洪水に関する気候、天候、実用情報を農家へ提供することにより、農家自身が土地や水源をより適正に管理できることを目的に実施されたものである。さらに、地域で初となるスマートICTシステムを実施し、気候変動対応型農業の促進の面から、農家への実用的な洪水情報の提供を実現した。現在、受賞者は南アジアの干ばつモニタリングシステムにおける二つの大規模構想に着手している。これらは、干ばつが農業生産に及ぼす影響に包括的に対処し、インデックスベースの洪水保険の構築を促進し、南アジアにおける氾濫被害の世帯を支援することを目的としている。

Dr. HO Le Thi
ホー レ ティ
国籍:ベトナム
所属:ベトナム農業科学アカデミー クーロンデルタ稲研究所

業績:ベトナム原産キュウリ品種およびベトナム稲品種に含まれるアレロパシーとアレロケミカルに関する研究

 

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[業績概要]

特定の作物や稲品種が産生するアレロケミカルには、稲収量の主要な制限因子であるイヌビエ(Echinochloa crus-galli L.)を生物学的に防除できる潜在的な可能性がある。ベトナムのキュウリ在来種(Cucumis sativus L. cv. Phung Tuong)において、三つの生長抑制化合物が分離され、同定された。すなわち、キュウリのアレロケミカルとして初めて発見された3-オキソ-α-イオノール(3-OI)、生長抑制作用があることが初めて報告された(S)-2-ベンゾイルオキシ-3-フェニル-1-プロパノール(SBPP)、そして重要な潜在的アレロケミカルとして初めて特定された(6S,7E,9S)-6,9,10-トリヒドロキシ-4,7-メガスチグマジエン-3-オン(TMO)である。イヌビエを含む被験植物種の根および胚軸伸長に対する3-OI、SBPP、TMOのED50(50%阻害に必要な濃度)の平均値は、それぞれ99.3および38.4 µMであった。また、1.0 kgの新鮮なキュウリにおける3-OI、(S)-2-ベンゾイルオキシ-3-フェニル-1-プロパノール(SBPP)、(6S,7E,9S)-6,9,10-トリヒドロキシ-4,7-メガスチグマジエン-3-オン(TMO)の内在量は、それぞれ、0.35、2.5、5.1 mgであった。N-trans-シンナモイルチラミン(NTCT)は、Oryza sativa L.cv. OM 5930稲が産生するアレロケミカルとして初めて特定された。イヌビエの根と胚軸に対するNTCTのED50は、それぞれ1.35および1.85 µM、また、1.0 kgの新鮮な稲におけるNTCTの内在量は42 mgであり、無傷の稲におけるこのNTCT産生量は高いと考えられる。

これらの所見は、キュウリのPhung Tuong品種とOM 5930稲品種の生長期にこれらのアレロケミカルが放出され、水田における雑草の生物学的防除に活用できる可能性があることを示唆している。

Dr. Asad JAN
アサド ジャン
国籍:パキスタン
所属:パキスタン ペシャワール農業大学
バイオテクノロジー遺伝子工学研究所

業績:環境ストレス状況下における植物の成長制御の解析

 

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[業績概要]

植物は、生物(病原体、昆虫による攻撃など)、非生物(高温および低温、干ばつ、塩分など)の多様なストレスによる負荷に絶えずさらされている。様々な非生物的ストレスに関与する適応反応の分子的基盤の把握と主要経路の特定は大きく進歩しており、より効果的な手法の導入により、非生物ストレスに対する植物の耐久性力が改善されている。

受賞者は、植物の非生物的ストレスに対する耐性のメカニズムと調整に関する研究を積極的に推進している。受賞者の研究は、イネにおけるCCCH-ジンクフィンガータンパク質遺伝子の特性評価と、ストレス誘導プロモーターの分離に関するものであり、イネに多様なストレス耐性を与えるOsTZF1という遺伝子の特性評価を行っている(Jan et al., 2013)。OsTZF1を過剰発現する遺伝子組換え植物は、塩分ストレス耐性等、複数のストレスに対して老化遅延と耐性を示す。OsTZF1遺伝子のタンパク質は、ターゲットRNAの3’非翻訳領域に結合したのではないかと考えられ、OsTZF1遺伝子が非生物的ストレスに関与する標的遺伝子のmRNAのターンオーバーを調節することによって、植物に非生物的ストレスに対する耐性を付与するのではないかという考えが提唱されている。適正なストレス誘導性プロモーターによるOsTZF1の発現は、植物の生長への影響を最小限に抑えた多様なストレスへの非生物的ストレス耐性の獲得することで、その有用性をさらに高めていくものと思われる(Nakashima et al., 2014)。また、受賞者は非生物的ストレス耐性を付与し、これらのストレスが植物に及ぼす不利益を最小限に抑制する別の遺伝子を分離し、その特性評価を行った。現在、干ばつ条件下において円錐花序と種子数の増加に関与する未公表の遺伝子のための遺伝子組換え植物について、現地で大規模な調査が行われているところである。

受賞者、審査員及び関係者

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