ベトナム・メコンデルタの養豚農家における豚コレラの診断と損耗対策

国名
ベトナム
要約

ベトナム・メコンデルタでは子豚の致命的疾病として豚コレラが重要な原因であることが明らかとなった。予納接種を効果的に行うためには、市販ワクチンの一本化と接種時期の適正化、普及ワクチンでは母豚は6カ月毎に種付け前の接種、子豚へは生後1月目の接種が必要である。

背景・ねらい

   ベトナム最大の穀倉地帯メコンデルタでは農畜水複合経営(VACR)システムが指向され、養豚部門は、副産物の有効利用、現金収入源として重要な役割を果たしている。しかし、子豚の病死が経営を圧迫しており、病因の究明と対策の検討が求められている。病死原因の一つとして致死率の高い豚コレラ(CSF)が知られているが、類症鑑別できず適切な対策がとられていない。そこで本課題では、致死例あるいは予後不良の豚群が発生した農家の瀕死豚から材料を採取し、病性鑑定することで病因の究明と対策の検討を行う。

成果の内容・特徴

  1. 今回発生農家10戸で認められた臨床症状は、現地の所謂サルモネラ症の臨床症状(悪寒、発熱、便秘等)とよく一致し、CSFまたはその複合感染症がサルモネラ症として診断されている可能性が高い。また、発症豚群の好発年齢は母豚が初産、子豚・肥育豚が哺乳期から離乳期(平均44日(se9.3)n=18腹(群))にかけての移行抗体衰退期であり、母豚、特に繁殖候補豚およびその子豚の予防接種が適切でないために、充分な抗体を保有せず発症した事例が多いといえる。
  2. CSF の病性鑑定では、直接蛍光抗体法(FA)により発症豚の材料接種細胞の一部に豚コレラウイルス(CSFV)抗原が確認された。また、全10戸の発症子豚からペスチウイルス属共通遺伝子(5末端非翻訳領域(5’NTR))が検出され、制限酵素処理(BglI)あるいはシークエンスによってCSFウイルス(CSFV)遺伝子であることが確認された(表1)。
  3. 検出されたウイルス遺伝子は系統樹分析によりワクチンウイルス(ベトナムN 社、ハンガリーC 社、ブラジルF 社、フランスM社、GPE-)とクラスターが分かれたため、ワクチンに由来したものではない。
  4. 予防接種状況調査から、一般に普及している接種方法はN 社ワクチンを30~45日齢の子豚と同時期に母豚に接種する簡便法である。通常、母豚は接種後数週間以内に種付けされるため、結果として年2回接種となる。CSFの発生は

1)母豚への追加接種を怠ったあるいは導入豚のため接種歴が不明な農家(6戸)、
2)N 社ワクチンを追加接種していたが、母豚は種付け前1~2ヶ月、子豚は未接種または22日齢で接種していた農家(2戸、図1)、
3)力価の異なる他社ワクチンをN 社ワクチンと同じ接種法で準用した農家(2戸)に認められた(表1)。一方、過去1年間豚コレラ未発生であったN社ワクチン接種農家10 戸27 群においては、子豚は平均31.5日齢(se2.0)、母豚は種付け前18.4日(se2.7)に接種されていた(図1)。

  1. 以上のことから、使用ワクチンを一本化し、母豚の接種時期を一定にする必要がある。最も普及しているN 社ワクチンの同時期接種法においては、追加接種は個体毎に6ヶ月以内に行うこととし、

1)繁殖候補豚の予防接種を徹底する、
2)母豚の種付けが3週間以上遅れた場合は再接種するといった対策が必要である。

成果の活用面・留意点

  1. CSF の正確な診断法が確立されたことから、症状が類似するサルモネラ症等との鑑別が可能となる。従って、経営を圧迫する要因であるCSFの発生状況が把握できることから、発生時の速やかな淘汰、ワクチン接種法の適正化が可能になり、被害を最小限に食い止めることができる。
  2. 接種適期については、精度を上げるために例数を増やすことが必要であり、また、ワクチン接種後の経時的な抗体価の測定を行うことも重要である。

具体的データ

  1. 表1
  2. 図1
Affiliation

国際農研 畜産草地部

分類

行政

予算区分
国際プロ〔メコンデルタⅡ〕
研究課題

メコンデルタにおける家畜の主要疾病の診断と損耗対策

研究期間

2003 年度(2002 ~ 2003 年度)

研究担当者

鎌川 明美 ( 畜産草地部 )

山田 俊治 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

久保 正法 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

吉井 雅晃 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

谷口 稔明 ( 農研機構 動物衛生研究所 )

HO Thi Viet Thu ( カントー大学 )

ほか
日本語PDF

2003_20_A3_ja.pdf2.46 MB

English PDF

2003_20_A4_en.pdf62.9 KB

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