水産庁による技術援助の動向

国際農林水産業研究センター研究会報告集
ISSN 13406094
NII recode ID (NCID) AN10446728
Full text
1. 開発途上国の我が国の漁業技術協力への要請は協力内容が多様化・高度化するとともに量的に拡大しつつある。
2. 我が国の漁業技術協力の形態としては, 個別専門官の派遣, 研究生の受け入れ, プロジェクトタイプの技術協力の他, 合併企業の設立・運営の助成を通じた技術移転の促進, 青年海外協力隊員の派遣等がある。実施機関としては, 国際協力事業団(JICA), 海外漁業協力団(OFCF)がある。OFCFによる技術協力の特徴としては1.業界要請をベースにしていること2.機動的実施が可能なこと等があげられる。
3. JICAを通じた技術協力は,(1)人道的配慮,(2)相互依存関係の認識,(3)自助努力支援,( 4)地球環境保全の基本的理念のもと, 実施されているが, 水産無償によって実施整備されるものとの有機的連携という役割もあることから,「海外漁場の確保」と無関係というわけではない。
4. 増養殖の場合, 漁労部門, 加工部門と比較し, 技術協力というよりは研究協力という意味あいが強い。
*増養殖の場合, 我が国の魚類と異なる種類も自然環境で大量に育成することが要求される。また, 環境, 生理, 生態, 水質, 飼料等多分野にわたって一定の知見の蓄積や技術水準が総合的に求められる。
く事例〉
・チリのシロサケ等の技術移転
・南太平洋における養殖プロジェクト(ソウギョ, オニテナガエピ, カキ)
5. 東南アジア漁業センター(SEAFDEC)の養殖部局は東南アジアにおける増養殖の調査研究, 技術移転に関し, 我が国の協力拠点として20年の実績を持つ。部局本部並びに支所はフィリピン内にあり, 4部370人(うち専門職員157人)が従事している。
6. 増養殖による水産振興はその国の自然環境のみならず, 技術レベルに応じて推進する必要がある。流行に乗った形で背伸びした増養殖開発の目標設定は援助側・被援助側双方にとって不幸なことである。
7. ー方, 例えば個別専門家の開発途上国派遣を例に取るにしても, 増養殖分野におけるその実績は増加しているし, 一部高度な内容の協力実績が評価されているのも事実である。このような状祝の中で, 熱帯農業研究センターが改組され新しく国際農林水産業研究センターの名のもとに水産部が設立されたことは, 画期的なことであり, 現地で悪戦苦闘されている専門家の方々にとって, 後方支援体制の整備という面で大きな朗報であるという事は間違いない。待望久しい機関が出現したということである。これは裏を返せば, 水産資源, 環境部門と同様に増養殖部門, 特に基礎研究の分野において公的機関の専門家が多数存在するにもかかわらず, その派遣専門家の人選に多大の困難が生じていたということでもある。
8. しかしながら, 国内体制は国内体制のこととして一歩さがって, 増養殖分野における技術援助という視点から議論すれば,「なにも我が国だけが無理をして開発途上国の養成を一手に引き受ける必要はなく, 自らの背丈, その伸長に応じて協力の実現を図るべきである」という主張も充分な説得力がある。確かに我が国の技術の実績は,増養殖分野のみならず他の分野でも増えている。しかし,要請自体も拡大していることから, 開発途上国からの要請のごく一部しか協力対応をしていないというのも看過できない事実である。
Date of issued
Creator 上之門量三
Publisher 農林水産省国際農林水産業研究センター
Available Online
Type Conference Paper
Volume 4
spage 37
epage 42
Language jpn

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