貯蔵中に糖濃度が上昇するオイルパーム伐採木の簡易選別法

研究課題

東南アジアバイオマス資源からのバイオ燃料及びバイオマテリアル生産技術開発

プログラム名

開発途上地域の農林漁業者の所得・生計向上と農村活性化のための技術の開発

予算区分

交付金[アジアバイオマス]

研究期間

2015年度(2011-2015年度)

研究担当者

小杉昭彦、荒井隆益、韮澤悟(国際農研生物資源・利用領域)

発表論文等
  • Abdul Hamid et al. (2015) Int. J. Green Energy DOI: 10.1080/15435075.2014.910786
  • 小杉ら (2014) 国際特許出願番号 PCT/JP2015/078124 (パーム幹の利用方法)

1. 研究の背景・ねらい

パーム幹伐採後、貯蔵により樹液中の糖濃度が大きく増加するという現象を発見した(平成20年国際農林水産業研究成果情報第16号、特開2009-254311)。この発見は、バイオエタノール製造の際、高コスト化の最大要因である低糖濃度による濃縮エネルギー投入と収支を大きく改善できる。すなわち貯蔵により、低糖度では資源価値の低い樹液を、貯蔵によりサトウキビジュースのような高糖度の樹液へ変換出来る。この糖濃度上昇の現象は、パーム幹中の澱粉濃度に依存している。高澱粉濃度のパーム幹は、必ず貯蔵により糖濃度の上昇が認められるが、反対に低澱粉濃度では糖度上昇は生じないことを明らかにしている。一方、パーム幹の外観からでは澱粉濃度は識別不可能であり、貯蔵工程をすべきか否か、伐採現場又は貯蔵現場において作業員が簡易にかつ迅速に判断を行えるような選別方法が必要となる。

2. 研究の成果の内容・特徴

  1. 伐採パーム幹の澱粉濃度の判定に調べるため、ヨウ素0.1N標準溶液を蒸留水で4倍希釈し、パーム伐採木の切断面にスプレーにより噴霧した。2本の伐採パーム幹のうち高澱粉濃度(46.8 %)のパーム幹の切断面は、ヨウ素液噴霧によりヨウ素デンプン反応を示し瞬時に紫色に染色された。一方、低澱粉含有パーム幹(7.1 %)の切断面は噴霧したヨウ素の原色(オレンジ)のままであった。
  2. これらパーム幹を使った貯蔵試験では、伐採直後の高澱粉含有パーム幹の樹液中の糖濃度(グルコース、スクロース、フルクトース量の総量)は平均5.0%(w/v)であったが、25日間の貯蔵により樹液中の糖濃度は平均16.0%(w/v)まで上昇した。一方、低澱粉含有パーム幹の伐採直後の樹液中の初発糖濃度は平均5.1%(w/v)であったが、貯蔵による樹液中の糖濃度上昇は認められなかった。
  3. これらの結果から伐採パーム幹へのヨウ素溶液の噴霧は、現場作業員が貯蔵工程をすべきか否か瞬時で判断できる簡便な方法である。

3. 追跡調査実施時の状況(令和元年度)

平成27年度主要普及成果「貯蔵中に糖濃度が上昇するオイルパーム伐採木の簡易選別法」に関する追跡調査を、令和元年12月22日~27日に実施した。外部評価者として、広島大学大学院国際協力研究科 金子慎治教授を招聘した。

追跡調査では、オイルパーム伐採木(OPT)利用に関わる日系企業、現地の関係機関(マレーシア標準工業研究所(SIRIM)、マレーシア森林研究所(FRIM))、OPTペレット生産実証プラント、既存の伐採木利用である合板加工の会社、およびオイルパーム農園等を訪問し、関係者からの聞き取り調査を実施した。

以下に、分析項目ごとに外部評価者のコメントを含めて調査の結果を示す。

4. 追跡調査における外部評価者のコメント(外部評価者 広島大学大学院国際協力研究科 金子慎治教授)

①受益者・ターゲットグループの明確性

バイオマスリファイナリー産業や温暖化対応ビジネスを考えている日本企業及び、事業展開を希望する現地企業が受益者である。またCOP21にて採択されたパリ協定を背景に、日本国政府の推進する再生可能エネルギー普及拡大のためのバイオマス資源の確保に資する。今回の調査でも、日本国内の燃料ペレット需要を見込んだ日本企業の参画や高付加価値製品製造を検討している日本企業の存在が確認され、受益者・ターゲットグループは明確であると判断された。なお、現地においては、エタノールやバイオガス生産を目指すマレーシアの研究所や行政機関などの関心も示され、より広い範囲の受益も期待された。

②目標の妥当性

貯蔵により伐採オイルパーム幹中の糖濃度が増加することを確認している。バイオエタノール製造など、高糖濃度が必要な製品製造の際、低糖濃度の樹液のエネルギー効率や収率を大きく改善できる。すなわち貯蔵により低糖度の樹液をサトウキビジュースのように高糖度樹液とすることを可能にする。この糖濃度上昇の現象は、パーム幹中の澱粉濃度に依存していることがこれまでの研究から明らかとなっている。一方、パーム幹の外観からでは澱粉濃度は識別不可能であり、本技術は伐採現場又は貯蔵現場において作業員が貯蔵すべきか容易に判断できる選別方法を提供する。直ちに現場に普及可能な方法と考えられる。今回の調査でも、ペレット、バイオガス、エタノール等、各種のOPT利用に関わる者からもOPT判別技術の効果に対して、強い期待が示されており、目標は妥当であると判断できる。

③内容の有効性

平成30年度に採択された「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」プロジェクト(代表機関:国際農研)において、OPTからの高付加価値製品を製造、社会実装を目指す上で、極めて重要な技術であり、例えば本技術による糖蓄積可能なOPTを選別、貯蔵することで高糖度を有する搾汁液から電源として必要なメタンガスやエタノールなど生産量を向上させることができる。本技術及び普及企業の内容からマレーシア以外にもインドネシア及びタイなどオイルパーム生産国に本技術の普及が見込まれる。以上から内容は有効であると判断できる。

④普及体制や組織の有無・明確性

マレーシアのMPOB(マレーシアオイルパーム評議会)やFELDA(連邦土地開発局)、MIDA(マレーシア投資開発庁)、SIRIMなどとの間で、OPTリサイクル技術の確立とその社会実装を目指した協議が進展していることから。そのため、本技術を含めたOPTからの燃料用ペレット、および搾汁液からのバイオガス生産や、それに関連した環境対策事業の普及に関わる多くの企業が本技術の特許利用許諾を受ける可能性が高い。

⑤普及のための外部要因やリスク

OPTリサイクル産業の経済性が最も大きなリスク要因である。また、OPTリサイクルの環境合理性や社会的妥当性の評価も重要であり、そのためにLCAや社会的費用便益分析などによる評価が重要な意味を持つ。その他、現地(インドネシア、マレーシア)での特許登録の遅れは普及のための阻害要因となっている。

⑥波及効果(インパクト)の有無

これまでオイルパーム農園における再植林の際、厄介物となっていたOPTが、サステナブルなゼロエミッション燃料や高付加価値製品への変換を促進させる技術である。これによる最も大きな社会的インパクトは、パーム油生産のためのオイルパーム農園拡大により、繰り返される熱帯林の伐採が抑制される効果である。また、我が国においては、OPTリサイクル製品の活用により、再生可能エネルギー導入の拡大や、COP約束草案の履行、エネルギーミックスへ整合性が担保できる事例となり得る。

⑦自立発展性の有無

OPTの利活用に関して、従来技術として幹外層部分を用いた合板製造はわずかに見られるが、ほとんど利活用されていない。従って、民間主導によりOPTからの燃料製造や高付加価値製品製造技術の普及により、マレーシアだけで無くインドネシアやタイなどパーム油生産国において、自立的に普及発展するものと考えられる。環境合理性・社会的妥当性が担保された場合、OPTリサイクル事業の経済性確保のための政策誘導も本提案技術の自立発展性にとって重要な役割を果たす。

⑧その他

マレーシア・ジョホール州の合板企業においてオイルパーム搾汁液からのバイオガス生産・発電実証試験が終了。商用規模稼働の際に本技術が利用される予定である。また、昨今の生分解性プラスチックの普及に伴い、サステナブルな発酵原料としてOPT樹液への注目が集まりつつある。OPTペレットは固定価格買取制度の認定対象になっている。

5. 総合評価

(1) 普及が拡大または停滞している要因の分析

本成果は、現地(マレーシア、インドネシア)において特許を取得し、特許利用許諾を受けた企業により普及を図る計画であるが、特許登録の遅れにより、現時点では現地で利活用されていない。これは現地の事情であり、止むを得ないものと考えられる。こうした状況で、日本の科学技術を途上国の持続可能な開発に資するべく社会実装するための国際共同研究事業であるSATREPSに本成果の利活用を含めた研究提案を行って採択されたことは、本研究成果の将来性に対する一定の評価であり、今後の普及、社会実装に期待が持てる。さらに、将来的な自立的発展にとってはOPTリサイクル事業の発展が大きな意味を持つ。そのために、OPTリサイクル事業の環境合理性、社会的妥当性、経済性などの評価が重要であり、本技術の普及速度や拡大の程度を左右する。

(2) 普及拡大のための改善事項、提言

本成果は、OPTの利活用に関する新しい事業化の決定に影響を与える提案型要素技術ともいうべきものであり、共同研究を含めた産学連携による成果の利活用に関する戦略的な取り組みが必要である。国際農研では、研究開発から民間企業との交渉まで、大部分が研究者自身により行われる体制となっているようであるが、例えば産学連携コーディネーターの配置など、成果の普及を図る人材の配置についても検討が必要ではないか。また、OPTリサイクル事業の社会経済的側面、政策評価などの社会科学分野の研究者との共同研究も重要な取り組みと考えられる。

(3) 今後の追跡調査の必要性、方法・時期等の提言

当面は、SATREPSの進展を見守ることで十分。その後、改めて追跡調査を行うことが望ましい。

(4) その他(類似プロジェクトや類似地区における研究プロジェクト実施における提言等)

特になし

図1 SIRIMにおける聞き取り調査

図2 FRIMにおける聞き取り調査

図3 OPTペレット生産実証プラントの視察

図4 合板加工工場における材の加工状況

図5 重機によるオイルパームの伐木状況

連絡先
〒305-8686 つくば市大わし1-1

国際農研 企画連携部 企画管理室 研究企画科

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