国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

サトウキビの新しい育種素材となるサトウキビとエリアンサスの属間雑種の作出

要約

サトウキビ普及品種とその近縁遺伝資源エリアンサスを交配して作出した属間雑種は、エリアンサスの染色体数が系統毎に異なり、農業特性に多様な変異がある。サトウキビ育種での遺伝的基盤拡大や新規特性の導入に向けた新しい育種素材として利用できる。

背景・ねらい

サトウキビは、世界の食料・エネルギー生産にとって重要な作物であるが、育種による生産性改良の停滞が問題となっており、未利用の遺伝資源を利用した遺伝的基盤の拡大や新規特性の導入が必要となっている。サトウキビの近縁属遺伝資源であるエリアンサス(Erianthus arundinaceus)は、バイオマス生産性が高く、干ばつ等の不良な環境への適応性に優れるため、サトウキビの更なる改良に向けた遺伝資源として期待できる。そこで、サトウキビ改良の新たな可能性を拓くため、世界的にも報告例が少ないサトウキビ普及品種(Sacchrum spp hybrid)とエリアンサスの属間雑種を作出し、その効果的な育種利用の基盤となる細胞遺伝学的特性や農業特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. サトウキビ普及品種(2n=110)とエリアンサス(2n=60)の属間交配で獲得した実生個体から5S rDNAマーカーで39系統、形態形質で2系統の属間雑種を選定した(図1)。
  2. 属間雑種には両親それぞれの半数の染色体が遺伝し、サトウキビの染色体数はほぼ安定(53~55本)であるが、エリアンサスの染色体数は系統毎に大きな変異があり(18~29本)、5SrDNA遺伝子が座乗するエリアンサス染色体の脱落により、5SrDNAマーカーではスクリーニングされない属間雑種がある(図1、図2a)。
  3. 属間雑種集団には、同じ茎の芽子(各節の芽)で増殖した栄養系個体間でエリアンサス染色体数が安定している系統と変異が見られる系統が出現する(図2b)。
  4. 属間雑種のDNA量とエリアンサス染色体数には高い正の相関関係が有り、DNA量からエリアンサス染色体数を大まかに推定できる(R2=0.85**)(図3)。
  5. 属間雑種の多くは両親より生育が劣る雑種弱勢を示し、ショ糖含率や繊維分の集団平均は両親の中間程度となるが、集団内の変異は大きく、母本としたサトウキビと同程度の乾物重やショ糖含率となる系統も存在する(図1、表1)。
  6. 属間雑種のエリアンサス染色体数と乾物重や茎径には正の相関関係があり、エリアンサスの染色体数が多い系統ほど生育が優れる傾向がある(表1)。

成果の活用面・留意点

  1. 作出した属間雑種は、サトウキビの遺伝的基盤の拡大、生産性や不良環境適応性などの更なる改良に向けた新しい育種素材として活用できる。また、属間雑種の細胞遺伝学的特性や農業特性の情報は、育種利用のための基礎情報として利用できる。
  2. 属間雑種のスクリーニングでは、5SrDNAマーカーのみではスクリーニングできない系統が出現するため、他のDNAマーカーを組み合わせてスクリーニングする必要がある。
  3. 属間雑種の一部の系統では、栄養系個体間でエリアンサス染色体数が異なるため、DNA量測定によるエリアンサス染色体数のモニタリングを行うなど系統の維持に注意が必要である。

具体的データ

  1. 図1 属間雑種の生育
    図1 属間雑種の生育
    a:母本としたサトウキビNiF8、b:サトウキビと同程度の生育を示す属間雑種J11-1、c:雑種弱勢を示す属間雑種J11-14、d:5SrDNAマーカーではスクリーニングされなかったが他の雑種と同様に弱勢を示すため選定した属間雑種J09-2。熱帯・島嶼研究拠点圃場にて2013年5月8日撮影

  2. 図2 属間雑種の染色体組成
    図2 属間雑種の染色体組成
    a:系統間の染色体数の変異、b:J11-7の栄養系個体間(A、B)の染色体数の変異。J08-12、J11-1、J09-16、J11-7は5S rDNAマーカー、J09-2は形態形質で選定。赤色の染色体はサトウキビ、緑色の染色体はエリアンサス由来染色体。右下の数字は、赤はサトウキビ、緑色はエリアンサスの染色体数。

  3. 図3 DNA量とエリアンサス由来染色体数
    図3 DNA量とエリアンサス由来染色体数
    属間雑種系統間のDNA量とエリアンサス染色体数の関係。栄養系個体間でエリアンサス由来染色体数が安定している属間雑種系統14系統のデータを利用。

  4. 表1 属間雑種の農業特性(新植栽培)
    形質 NiF8 JW4 属間雑種 エリアンサス
    染色体数との相関係数
    (
    n=14) 2)
    サトウ
    キビ
    エリアンアス 平均 最小 最大 CVg
    (母本) (父本) (n=32) (n=32) (n=32) (n=23)1)
    乾物重(g/株) 1621.9 1419.3 591.0 40.3 1713.2 68.6 0.773*
    茎数(本/株) 6.4 43.4 10.8 1.0 22.1 40.2 0.336
    茎長(cm 119.5 64.8 67.6 15.0 125.8 39.5 0.457
    茎径(mm 21.8 10.7 12.1 5.9 16.6 17.4 0.697*
    ショ糖含率(% 17.8 3.1 8.5 2.3 18.0 20.4 0.418
    繊維分(% 10.2 23.4 16.7 8.0 22.4 15.1 -0.409
    熱帯・島嶼研究拠点での結果。1ヶ月程度育苗した苗を2012年5月22日に植付け、2013年2月18~22日に収穫。1区5株、属間雑種23系統は3反復、6系統は2反復、3系統は1反復で評価。
    1) 遺伝的変動係数(CVg)は3反復で試験した23系統のデータを利用。
    2) 栄養系個体間でエリアンサス由来染色体数が安定している14系統のデータを利用。*は5%水準以上で有意。
所属

国際農研熱帯・島嶼研究拠点

分類

研究

研究プロジェクト

不良環境でのバイオマス生産性が優れる新規資源作物とその利用技術の開発(高バイオマス資源作物)

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

交付金高バイオマス資源作物

受託沖縄県・糖業の高度化事業

研究期間

2018年度(2011~2020年度)

研究担当者
  • 寺島 義文 (熱帯・島嶼研究拠点)
  • 高木 洋子 (熱帯・島嶼研究拠点)
  • Babil Pachakkil (東京農業大学)
  • 近江戸 伸子 (神戸大学)
  • 蝦名 真澄 (農研機構 畜産研究部門)
  • 伊禮 (沖縄県農業研究センター)
  • 久喜 (筑波大学)
  • 発表論文等

    Babil P et al. (2018) Scientific Reports, 9:1748 DOI: 10.1038/s41598-018-38316-6

    日本語PDF
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