スーダンサバンナでは地中レーダーで鉄石固結層の出現深度を測定できる

要約

地中レーダーで鉄石固結層の出現深度を精度良く測定できることを世界で初めて明らかにした。スーダンサバンナでは鉄石固結層の出現深度で土壌型や土地生産力を推定できるため、今後地中レーダーで簡単・迅速に土壌型および土地生産力の評価が可能になる。

背景・ねらい

最貧国が集中するスーダンサバンナ(西アフリカの年平均降水量が600~900mmの半乾燥地)で砂漠化と飢餓の問題を解決するためには、土壌を適切に保全しつつ、持続可能な方法で農業生産力を高める必要がある。本地域では、これまで土壌保全、品種改良、栽培管理等に関する研究が実施されてきたものの、土壌中に鉄石固結層(作物生産に寄与しないレンガの様に堅密な層)が分布し数百m程度離れただけでも土壌型と土地生産力が変わるという特徴のため、ある調査地点で得られた試験結果の適用範囲が分からず、研究成果を実用的に利用できていない。一方、土壌型と土地生産力の把握には高度な専門知識や多大な労力・時間が必要なことから、大規模な調査を実施することは難しい。以上のように、スーダンサバンナでは迅速に土壌型と土地生産力を把握できる簡便な手法の開発が強く望まれている。

成果の内容・特徴

  1. 乾燥時の鉄石固結層の比誘電率は他の土層より大きいため、鉄石固結層の出現深度は地中レーダーで精度良く測定できる(図1, 2)。
  2. スーダンサバンナで優占する土壌型(2種類のPlinthosols、Lixisols)は鉄石固結層の出現深度から概ね推定でき(Ikazaki et al. 2018)、また鉄石固結層の出現深度と慣行法(無施肥)で栽培した際のソルガム収量には有意な正の相関が認められる(図3)。従って、同地域では従来の様に試坑(幅1.0 m×奥行1.5 m×深さ1.3 m程度の穴)を掘ることなく地中レーダーで簡単かつ迅速に土壌型を把握でき、またソルガムの生産力も推定できる。
  3. 試坑を伴う従来の調査では土壌型の情報が点であったのに対し、本手法では迅速に二次元(面的に広がる)の土壌型の情報が得られる。
  4. 本手法は誰でも簡単に実施できることから、今後スーダンサバンナで土壌型と土地生産力を踏まえた土壌保全、品種改良、栽培管理等の技術開発が加速され、砂漠化と飢餓の問題が解決に向けて大きく前進すると期待できる。

成果の活用面・留意点

  1. スキャン画像中での鉄石固結層の判読は地中レーダーに付属する簡易なプログラムで簡単に実施できるため、本手法は物理探査や土壌に関する高度な専門知識や経験を要求しない。
  2. 本手法は乾季が明瞭で鉄石固結層が分布する他の地域(ブラジルや東アフリカなど)で利用できる。
  3. 地中レーダーによる土壌型の把握は、鉄石固結層の出現深度から土壌型を推定できる場合のみ有効であり、全ての土壌型の推定に有効という訳ではない。
  4. 地中レーダーによる物理探査は比誘電率が高い水の影響を強く受けるため、本手法は土壌が乾燥しない湿潤な気候下では利用できない。

具体的データ

  1. 図1 地中レーダーによる鉄石固結層の検出(模式図)

    図1 地中レーダーによる鉄石固結層の検出(模式図)
    比誘電率(ε)が大きく異なる土層があった場合、地中レーダーはその境界を検出できる(左図、中図)。境界の深度(d)は電磁波の速度(v)と往復時間から計算される。境界はスキャン画像(右図)の中では強い反射(紫~白)として現れる。本研究では300と800 MHzの2アンテナを有するレーダーを用いた。

  2. 図2 地中レーダーで推定した鉄石固結層の出現深度と実測値との関係

    図2 地中レーダーで推定した鉄石固結層の出現深度と実測値との関係
    地中レーダーによる測定は走査方向を変えて2反複で行い、その平均値を示した。

  3. 図3 鉄石固結層の出現深度と慣行法(無施肥)でのソルガム収量との関係

    図3 鉄石固結層の出現深度と慣行法(無施肥)でのソルガム収量との関係
    年平均降水量が800 mmのブルキナファソ環境農業研究所サリア支所での結果を示した。

Affiliation

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

資源・環境管理

予算区分

交付金 » アフリカ流域管理

研究期間

2018年度(2016~2020年度)

研究担当者

伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 70582021

南雲 不二男 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20399372

Simporé Saïdou ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

Barro Albert ( ブルキナファソ環境農業研究所 )

ほか
発表論文等

Ikazaki K et al. (2018) SSPN, 64: 623-631

https://doi.org/10.1080/00380768.2018.1502604

日本語PDF

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ポスターPDF

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