会議概要報告

小麦イニシアティブ報告 2017年4月 オーストリア、ウィーン/トゥルン

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国際的な小麦共同研究のプラットフォームである小麦イニシアティブ(International Research Initiative for Wheat Improvement、略称WI)は、オーストリアで開催された第13回国際小麦遺伝学シンポジウム(International Wheat Genetics Symposium, 略称IWGS)にあわせて、サテライト会議として6つの専門家作業グループ(Expert Working Group、略称EWG)会合や研究理事会を開催しました。そのうち、小麦品質と安全性に関するEWGの第2回会合に国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 西日本農業研究センターの池田が、研究理事会に農研機構 次世代作物開発研究センターの半田が出席しました。

1.小麦品質と安全性に関するEWG第2回会合

小麦品質と安全性に関するEWG第2回会合は、4月20日〜22日にオーストリア、ウィーンの天然資源および応用生命科学大学で開かれ、日本、米国、メキシコ、オーストラリア、イギリス、イタリア、オーストリア、スェーデン、スペイン、フランス、南アフリカ、ポルトガル、チュニジア、カザフスタン、ロシアの15カ国の27名(9名の非メンバーを含む)および、ゲストとして他の3つの専門家作業グループ(非生物的ストレスに対する小麦の適応、デュラム小麦のゲノムと育種、小麦情報システム)のリーダー3名が参加しました。

 この会合では、まず議長である池田からこのEWGの位置づけとこれまでの活動として、第1回会合の内容(https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/wheat-initiative-1st…)、小麦のグルテニン遺伝子型の標準品種のCIMMYTジーンバンクによる共有化、デュラム小麦のゲノミックスと育種のEWGとのデュラム小麦の品質特性調査に関する連携、小麦情報システムのEWGとの合同研究会について報告しました。また、実質的に貢献できていないメンバーが多いことから、EWGの運営方法についての議論を行い、副議長のCIMMYTのGuzmanからの提案でメンバーの条件について検討することとしました。また、前回の会合に参加していないメンバーにより、米国、スペイン、チュニジア、カザフスタンでの研究紹介を行いました。その後、以下の分野に関する講演を行いました。

  • 小麦加工品質:加工に関するサブグループは参画者が少なく、活動が停滞しているのが現状です。この分野では、高付加価値化のための加工技術、加工の分子レベルでの構造理解が重要であり、EWGとして新たな共同研究と資金獲得を進めるためにこの分野の共通基盤を構築することを検討していくこととしました。
  • グルテン分析法の標準化:これまでグルテンタンパク質の分析方法は標準法がなく、研究者によって分析方法が異なることからデータの比較や遺伝子型の命名法に混乱が生じています。この問題を解決するため、研究室間で共通のサンプルを用いてグルテンタンパク質の代表的な手法であるSDS-PAGE法の比較を行うことを提案しました。
  • グリアジン遺伝子型解析のための標準品種セットの開発:グルテンタンパク質の中でも大半を占めるグリアジンはグルテニンに比べて分子種が多く、その解析が十分に進んでいませんでした。グリアジン遺伝子型の解析とその加工品への効果について発表があり、グリアジン遺伝子型解析のための標準品種セットを提案しました。今後このセットを共有し、グリアジンの解析を進めていくこととしました。
  • 小麦アレルギーと関連疾患:アレルギーの原因となるプロラミンタンパク質遺伝子の同定や、小麦アレルギーと関連疾患の話題とともに、これらに対するEWGの活動について議論しました。今後、これら疾患を低減する小麦の遺伝資源のリストアップを行うこととなりました。また、アレルゲン量と組成の環境による影響について検討していくこととしました。
  • デュラム小麦のグルテニン遺伝子型命名法と標準品種セットの選定:これまでパン小麦についてはグルテニン遺伝子型とそれに対応した標準品種のセットが作られてきましたが、デュラム小麦は含まれていなかったことから、改めてデュラム小麦のグルテニン遺伝子型を解析し、標準セットを提案しました。
  • 品質EWGの今後の活動について:今後の活動について、ネットワークを深めるためのヨーロッパのCOST actionへの応募や、我々の活動をFrontiers in Plant Scienceの特集号として出すことが提案され、今後議論していくこととしました。

また、今後連携を進めていく3つのEWGから以下の講演が行われました。

  • デュラム小麦のゲノミックスと育種:このEWGでは国際的な共同研究により現行品種であるSvevoの全ゲノム配列を解析しています。またコアコレクションとして960系統を選定しその特徴付けを進めており、我々のEWGもその一部について品質特性を解析することになっています。前述したデュラム小麦のグルテニン遺伝子型の標準品種のセットを彼らのコアコレクションに含めてもらうこととしました。
  • 非生物的ストレスに対する小麦の適応:高温と乾燥ストレスの品質に対する影響とそのメカニズムの理解のため国際連携を図る試みと、この分野における遺伝子型と環境の相互作用の重要性について発表があり、今後このEWGとどのような連携が可能か検討することとしました。
  • 小麦情報システム:全ゲノム情報を含む様々な小麦関連情報を統合し共有化に向けた調査・研究について発表があり、急速に増大するゲノム情報とGene Catalogueの遺伝子型情報の連携と、麦類(Triticeae)での遺伝子型命名法の統一についての提案がなされました。これについては、出張者を含む品質EWGのメンバーと昨年10月にミュンヘンのドイツ環境保健研究センターで共同の研究会を行い、その後もSkypeで定期的に議論を行っており、今年も研究会を開催する予定です。

これらの講演に加えて、今後取り組むべき課題について議論を行った結果、以下のようなことを進めていくこととしました。

  • EWGメンバーとしてのガイドラインを示し、各メンバーが活動内容ごとに参画するようにする。
  • 関連分野の学生を支援するためのコミュニケーションやトレーニングを進めていく。
  • 国際的な共同研究を行うためのプラットフォームの整備として、品質関連形質の標準品種を共有化し、その評価法の標準化を進めていく。
  • 品質における環境の影響を評価するため、国際的な試験を検討する。
  • 品質分野での総説を準備する。
  • 関連企業からのメンバーを増やし、コミュニケーションを深めていく。

次回のEWG会合は、来年3月にメキシコで行われる第13回国際グルテン研究会に合わせて行うことが提案された。

2.研究理事会

研究理事会に於いては、発足して5年が経過したWIの今後の運営に関する議論が中心となりました。理事会としては、活動自体は上記のEWGによる活動を始め順調に推移しているという認識を持っていますが、立ち上げの5年間に大きな運営支援してくれていたフランス国立農業研究所(INRA)のサポートの終了に伴い、今後の運営体制の再構築が問題となっていました。これについては、ドイツ農務省との協議で、今後5年間、ドイツ政府がWIのホストとなることで落着しました。今年末に予定されているベルリンへの事務局移転に伴って、WIの新しい運営体制がスタートすることとなります。また、これまで、国際小麦遺伝学シンポジウム(IWGS)と国際コムギ会議(International Wheat Conference)の二つのコムギに関する国際会議が並立していた状態をWIのイニシアティブの下に統合して、新たにInternational Wheat Congress(仮称)として、その第一回を2019年7月にカナダ・サスカチュワンで開催することを公表しました。

EWG meeting

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