国立研究開発法人国際農林水産業研究センター文書開示決定等審査基準

14国研セ第9-121号
平成14年9月20日
最終改正26国研セ第15033014号
平成27年4月1日

1 第5条第1号(個人に関する情報)関係

1 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該 情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

 
  • イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
  • ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
  • ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法第2条第4項に規定する行政執行法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号。以下「独立行政法人等情報公開法」という。)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

 

【趣旨】
本号は、個人に関する情報の不開示情報としての要件を定めるものである。
【解説】
地方公共団体の情報公開条例や諸外国の情報公開法制の中には、個人に関する情報のうち、個人のプライバシー等の権利利益を害するおそれがあるものに限って不開示情報とする方式(プライバシー保護型)を採用しているものもあるが、我が国では、いわゆるプライバシーの概念は、法的にも社会通念上も必ずしも確立したものではないことから、本法では、個人の権利利益の十分な保護を図るため、特定の個人を識別できる情報は、原則として不開示とする方式(個人識別型)を採用している。ただし、個人識別型を採用した結果、本来保護する必要性のない情報も含まれることになることから、公知の情報等個人に関する情報の不開示情報から除かれるべきものを限定列挙している。

 

1 特定の個人を識別することができる情報(本文)

  • (1)「個人に関する情報」
    「個人に関する情報」(以下「個人情報」という。)とは、個人の内心、身体、身分、地位その他個人に関する一切の事項についての事実、判断、評価等のすべての情報が含まれるものであり、個人に関連する情報全般を意味する。したがって、個人の属性、人格や私生活に関する情報に限らず、個人の知的創作物に関する情報、組織体の構成員としての個人の活動に関する情報も含まれる。
    個人の権利利益を十全に保護するため、個人識別性のある情報を一般的に不開示とし、個人情報の判断に当たり、原則として、公務員に関する情報と非公務員に関する情報とを区別していない。ただし、前者については、特に不開示とすべきでない情報をハにおいて除外している。
    「個人」には、生存する個人のほか、死亡した個人も含まれる。生前に本号により不開示であった情報が、個人が死亡したことをもって開示されることとなるのは不適当である。
  • (2)「事業を営む個人の当該事業 ( に関する情報を除く。)」
    「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、個人情報の意味する範囲に含まれるが、当該事業に関する情報であるので、法人等に関する情報と同様の要件により不開示情報該当性を判断することが適当であることから、本号の個人情報からは除外している。
  • (3)「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」
    「特定の個人を識別することができるもの」の範囲は、当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることとなる氏名その他の記述の部分だけでなく、氏名その他の記述等により識別される特定の個人情報の全体である。
    「その他の記述等」としては、例えば、住所、電話番号、役職名、個人別に付された記号、番号(振込口座番号、試験の受験番号、保険証の記号番号等)等が挙げられる。氏名以外の記述等単独では、必ずしも特定の個人を識別することができない場合もあるが、当該情報に含まれるいくつかの記述等が組み合わされることにより、特定の個人を識別することができることとなる場合が多いと考えられる。
  • (4)「(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」
    ① 当該情報単独では特定の個人を識別することができないが、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができるものについても、個人識別情報として不開示情報となる趣旨である。
    照合の対象となる「他の情報」としては、公知の情報や、図書館等の公共施設で一般に入手可能なものなど一般人が通常入手し得る情報が含まれる。また、何人も開示請求できることから、仮に当該個人の近親者、地域住民等であれば保有している又は入手可能であると通常考えられる情報も含まれると解する。他方、特別の調査をすれば入手し得るかも知れないような情報については、一般的には、「他の情報」に含めて考える必要はないものと考えられる。
    照合の対象となる「他の情報」の範囲については、当該個人情報の性質や内容等に応じて、個別に適切に判断することが必要となる。
    ② また、識別可能性の判断に当たっては、厳密には特定の個々人を識別することができる情報ではないが、特定の集団に属する者に関する情報を開示すると、当該集団に属する個々人に不利益を及ぼすおそれがある場合があり得る。このように、当該情報の性質、集団の性格、規模等により、個人の権利利益の十全な保護を図る観点から、個人識別性を認めるべき場合があり得る。
  • (5)「特定の個人を識別することができないが、公にすることにより、なお、個人の権利利益を害するおそれがあるもの」
    独立行政法人が保有する個人情報の大部分は、特定の個人を識別することができる情報であり、これを不開示情報とすることで、個人の権利利益の保護は基本的には十分確保されると考えられる。
    しかしながら、中には、匿名の作文や、無記名の個人の著作物のように、個人の人格と密接に関連したり、公にすれば財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがあると認められるものがあることから、特定の個人を識別できない個人情報であっても、公にすることにより、なお、個人の権利利益を害するおそれがある場合について、補充的に不開示情報として規定したものである。

2 「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」(ただし書イ)

個人識別情報であっても、一般に公にされている情報については、あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものと考えられることから、ただし書により、本号の不開示情報から除くこととしたものである。

  • (1)「法令の規定により」
    「法令の規定」は、何人に対しても等しく当該情報を公開することを定めている規定に限られる。公開を求める者又は公開を求める理由によっては公開を拒否する場合が定められていれば、当該情報は、「公にされている情報」には該当しない。
  • (2)「慣行として」
    公にすることが慣習として行われていることを意味するが、慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく、事実上の慣習として公にされていること又は公にすることが予定されていることで足りる。
    当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても、それが個別的な事例にとどまる限り、「慣行として」には当たらない。
  • (3)「公にされ」
    当該情報が、現に公衆が知り得る状態に置かれていれば足り、現に公知(周知)の事実である必要はない。過去に公にされたものであっても、時の経過により、開示請求の時点では公にされているとは見られない場合があり得る。
  • (4)「公にすることが予定されている情報」
    将来的に公にする予定(具体的に公表が予定されている場合に限らず、求めがあれば何人にも提供することを予定しているものも含む。)の下に保有されている情報をいう。ある情報と同種の情報が公にされている場合に、当該情報のみ公にしないとする合理的な理由がないなど、当該情報の性質上通例公にされるものも含む。

3 「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(ただし書ロ)

人の生命、健康その他の基本的な権利利益を保護することは、独立行政法人の基本的な責務である。
不開示情報該当性の判断に当たっては、開示することの利益と開示されないことの利益との調和を図ることが重要であり、個人情報についても、公にすることにより害されるおそれがある当該情報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るときには、当該個人情報を開示する必要性と正当性が認められることから、当該情報を開示しなければならないこととするものである。現実に、人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。
この比較衡量に当たっては、個人の権利利益にも様々なものがあり、また、人の生命、健康、生活又は財産の保護にも、保護すべき権利利益の程度に差があることから、個別の事案に応じた慎重な検討が必要である。
なお、人の生命、健康等の基本的な権利利益の保護以外の公益との調整は、公益上の理由による裁量的開示の規定(法第7条)により図られる。

 

4 「当該個人が公務員である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」(ただし書ハ)

法人文書には、業務遂行の主体である公務員の職務活動の過程又は結果が記録されているものが多いが、政府の諸活動を説明する責務が全うされるようにするという観点からは、これらの情報を公にする意義は大きい。一方で、公務員についても、個人としての権利利益は、十分に保護する必要がある。
この両者の要請の調和を図る観点から、どのような地位、立場にある者(「職」)がどのように職務を遂行しているか(「職務遂行の内容」)については、たとえ、特定の公務員が識別される結果となるとしても、個人に関する情報としては不開示とはしないこととする趣旨である。

  • (1)「当該個人が公務員である場合において」
    個人情報のうち、当該個人が「公務員」である場合である。
  • 「公務員」の職務遂行に係る情報が職務遂行の相手方等公務員以外の個人情報である場合がある。このように一つの情報が複数の個人情報である場合には、各個人ごとに不開示情報該当性を判断する必要がある。すなわち、当該公務員にとっての不開示情報該当性と他の個人にとっての不開示情報該当性とが別個に検討され、そのいずれかに該当すれば、当該部分は不開示とされることになる。
    「公務員」とは、広く公務遂行を担任する者を含むものであり、一般職か特別職か、常勤か非常勤かを問わず、国及び地方公共団体の職員のほか、国務大臣、国会議員、裁判官等を含む。また、公務員であった者が当然に含まれるものではないが、公務員であった当時の情報については、本規定は適用される。

  • (2)「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき」
    「職務の遂行に係る情報」とは、公務員が独立行政法人及び行政機関その他の国の機関又は地方公共団体の機関の一員として、その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する。例えば、行政処分その他の公権力の行使に係る情報、職務としての会議への出席、発言その他の事実行為に関する情報がこれに含まれる。
    また、本規定は、具体的な職務の遂行との直接の関連を有する情報を対象とし、例えば、公務員の情報であっても、職員の人事管理上保有する健康情報、休暇情報等は管理される職員の個人情報として保護される必要があり、本規定の対象となる情報ではない。
  • (3)「当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」
    公務員の職務の遂行に係る情報には、当該公務員の氏名、職名及び職務遂行の内容によって構成されるものが少なくない。このうち、前述のとおり、政府の諸活動を説明する責務が全うされるようにする観点から、公務員の氏名を除き、その職名と職務遂行の内容については、当該公務員の個人に関する情報としては不開示とはしないという意味である。
  • (4)公務員の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名の取扱い
    公務員の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名については、公にした場合、公務員の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けた上で、ただし書イに該当する場合には例外的に開示することとするものである。
    すなわち、当該公務員の職及び氏名が、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている場合には、職務の遂行に係る情報について、本号のハとともに、イが重畳的に適用され、個人情報としては不開示とはならないことになる。慣行として公にされているかどうかの判断に当たっては、人事異動の官報への掲載その他独立行政法人により職名と氏名とを公表する慣行がある場合、独立行政法人により作成され、又は独立行政法人が公にする意思をもって(あるいは公にされることを前提に)提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に職と氏名とが掲載されている場合には、その職にある者の氏名を一般に明らかにしようとする趣旨であると考えられ、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されていると解される。

5 本人からの開示請求

本法の開示請求権制度は、何人に対しても、請求の目的の如何を問わず請求を認めていることから、本人から、本人に関する情報の開示請求があった場合にも、開示請求者が誰であるかは考慮されない。したがって、特定の個人が識別される情報であれば、本号のイからハ又は公益上の理由による裁量的開示(第7条)に該当しない限り、不開示となる。
なお、行政機関が保有する電子計算機処理に係る個人情報については、行政機関が保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律により、一定の個人情報ファイルに記録されている自己情報の開示が認められている。

2 第5条第2号(法人等に関する情報)関係

2 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

 
  • イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
  • ロ 独立行政法人等の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの

【【趣旨】
本号は、法人等に関する情報の不開示情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報の不開示情報としての要件を定めるものである。

【解説】

 

1 「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)」

(本文)

  • (1)「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除    く。)に関する情報」
    株式会社等の商法上の会社、財団法人、社団法人、学校法人、宗教法人等の民間の法人のほか、特殊法人及び認可法人、政治団体、外国法人や法人ではないが権利能力なき社団等も含まれる。
    一方、国、独立行政法人等及び地方公共団体については、その公的性格にかんがみ、法人等とは異なる開示・不開示の基準を適用すべきであるので、本号から除き、その事務又は事業に係る不開示情報は、第4号等において規定している。
    「法人その他の団体に関する情報」は、法人等の組織や事業に関する情報のほか、法人等の権利利益に関する情報等法人等と何らかの関連性を有する情報を指す。
    なお、法人等の構成員に関する情報は、法人等に関する情報であると同時に、構成員各個人に関する情報でもある。
  • (2)「事業を営む個人の当該事業に関する情報」
    「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、事業に関する情報であるので、(1)に掲げた法人等に関する情報と同様の要件により、事業を営む上での正当な利益等について不開示情報該当性を判断することが適当であることから、本号で規定しているものである。
  • (3)「ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。」
    本号のただし書は、第1号ロと同様に、当該情報を公にすることにより保護される人の生命、健康等の利益と、これを公にしないことにより保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益とを比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないとするものである。
    現実に人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。なお、法人等又は事業を営む個人の事業活動と人の生命、健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくても、現実に人の生命、健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあり得る。
  •  

2 「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(イ)

  • (1)「権利」
    信教の自由、集会・結社の自由、学問の自由、財産権等、法的保護に値する権利一切を指す。
  • (2)「競争上の地位」
    法人等又は事業を営む個人の公正な競争関係における地位を指す。
  • (3)「その他正当な利益」
    ノウハウ、信用等法人等又は事業を営む個人の運営上の地位を広く含むものである。
  • (4)「害するおそれ」
  • 「害するおそれ」があるかどうかの判断に当たっては、法人等又は事業を営む個人には様々な種類、性格のものがあり、その権利利益にも様々のものがあるので、法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容、性質等に応じ、当該法人等又は事業を営む個人の憲法上の権利(信教の自由、学問の自由等)の保護の必要性、当該法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断する必要がある。なお、この「おそれ」の判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。

3 「独立行政法人等の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」(ロ)

本号は、法人等又は事業を営む個人から公にしないとの条件の下に任意に提供された情報については、当該条件が合理的なものと認められる限り、不開示情報として保護しようとするものであり、情報提供者の信頼と期待を基本的に保護しようとするものである。なお、独立行政法人等の情報収集能力の保護は、別途、第4号等の不開示情報の規定によって判断されることとなる。

  • (1)「独立行政法人等の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたもの」
    独立行政法人等の要請を受けずに、法人等又は事業を営む個人から提供された情報は含まれない。ただし、独立行政法人等の要請を受けずに法人等又は事業を営む個人から提供申出があった情報であっても、提供に先立ち、法人等又は事業を営む個人の側から非公開の条件が提示され、独立行政法人等が合理的理由があるとしてこれを受諾した上で提供を受けた場合には、含まれ得ると解する。
    「要請」には、法令に基づく報告又は提出の命令は含まれないが、独立行政法人等が報告徴収権限を有する場合でも、当該権限を行使することなく、任意に提出を求めた場合は含まれる。
    「公にしない」とは、本法に基づく開示請求に対して開示しないことはもちろんであるが、第三者に対して当該情報を提供しない意味である。また、特定の行政目的以外の目的には使用しないとの条件で情報の提供を受ける場合も通常含まれる。
    「条件」については、独立行政法人等の側から公にしないとの条件で情報を提供してほしいと申し入れる場合も、法人等又は事業を営む個人の側から独立行政法人等の要請があったので情報は提供するが公にしないでほしいと申し出る場合も含まれるが、いずれにしても双方の合意により成立するものである。
    また、条件を設ける方法については、黙示的なものを排除する趣旨ではない。
  • (2)「法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」
    「法人等又は個人における通例」とは、当該法人等又は個人の個別具体的な事情ではなく、当該法人等又は個人が属する業界における通常の取扱いを意味し、当該法人等において公にしていないことだけでは足りない。
    公にしないとの条件を付すことの合理性の判断に当たっては、情報の性質に応じ、当該情報の提供当時の諸般の事情を考慮して判断するが、必要に応じ、その後の変化も考慮する趣旨である。公にしないとの条件が付されていても、現に当該情報が公にされている場合には、本号には当たらない。

3 第5条第3号(審議、検討等情報)関係

3 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

【趣旨】
本号は、審議、検討等情報の不開示情報としての要件を定めるものである。

【解説】
開示請求の対象となる法人文書は、決裁、供覧等の手続を終了したものに限られないことから、国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における意思決定前の審議、検討又は協議の段階において作成又は取得された文書であっても、組織的に用いるものとして現に保有していれば、対象文書となる。
このように、開示請求の対象となる法人文書の中には、独立行政法人等としての最終的な決定前の事項に関する情報が少なからず含まれることになるため、これらの情報を開示することによってその意思決定が損なわれないようにする必要がある。しかしながら、事項的に意思決定前の情報をすべて不開示とすることは、独立行政法人等がその諸活動を説明する責務を全うするという観点からは、適当ではない。そこで、個別具体的に、開示することによって独立行政法人等の適正な意思決定に支障を及ぼすおそれの有無及び程度を考慮し、不開示とされる情報の範囲を画したものである。

1 「国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部 又は相互間」

「国の機関」とは、国会、内閣、裁判所及び会計検査院(これらに属する機関を含む。)を指し、これらの機関、独立行政法人等及び地方公共団体について、それぞれの機関の内部又は他の機関との相互間の意味である。

 

2 「審議、検討又は協議に関する情報」

国の機関、独立行政法人等又は地方公共団体の事務及び事業について意思決定が行われる場合に、その決定に至るまでの過程においては、例えば、具体的な意思決定の前段階としての政策等の選択肢に関する自由討議のようなものから、一定の責任者の段階での意思統一を図るための協議や打合せ、決裁を前提とした説明や検討、審議会等又は独立行政法人等が開催する有識者、関係法人等を交えた研究会等における審議や検討など、様々な審議、検討及び協議が行われており、これら各段階において行われる審議、検討又は協議に関連して作成され、又は取得された情報をいう。

 

3 「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」

公にすることにより、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合を想定したもので、適正な意思決定手続の確保を保護利益とするものである。
例えば、審議、検討等の場における発言内容が公になると、発言者やその家族に対して危害が及ぶおそれがある場合には、第4号等の他の不開示情報に該当する可能性もあるが、「率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれ」が生じたり、また、独立行政法人内部の施策の検討がまだ十分でない情報が公になり、外部からの圧力により当該施策に不当な影響を受けるおそれがあり、「意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」が生じたりすることのないようにする趣旨である。

4 「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」

未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報などを公にすることにより、国民の誤解や憶測を招き、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある場合をいう。適正な意思決定を行うことそのものを保護するのではなく、情報が公にされることによる国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。
例えば、特定の物資が将来不足することが見込まれることから、政府として取引の規制が検討されている段階で、その検討情報を公にすれば、買い占め、売り惜しみ等が起こるおそれがある場合に、「国民の間に不当な混乱」を生じさせたりすることのないようにする趣旨である。

 

5 「特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」

尚早な時期に情報や事実関係の確認が不十分な情報などを公にすることにより、投機を助長するなどして、特定の者に不当に利益を与え又は不利益を及ぼす場合を想定したもので、4と同様に、事務及び事業の公正な遂行を図るとともに、国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。
例えば、施設等の建設計画の検討状況に関する情報が開示されたために、土地の買い占めが行われて土地が高騰し、開示を受けた者等が不当な利益を得たり、違法行為の事実関係についての調査中の情報が開示されたために、結果的に違法・不当な行為を行っていなかった者が不利益を被ったりしないようにする趣旨である。

 

6 「不当に」

上記3、4及び5のおそれの「不当に」とは、審議、検討等途中の段階の情報を公にすることの公益性を考慮してもなお、適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度のものを意味する。予想される支障が「不当」なものかどうかの判断は、当該情報の性質に照らし、公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される。

 

7 意思決定後の取扱い等

審議、検討等に関する情報については、独立行政法人等としての意思決定が行われた後は、一般的には、当該意思決定そのものに影響が及ぶことはなくなることから、本号の不開示情報に該当する場合は少なくなるものと考えられるが、当該意思決定が政策決定の一部の構成要素であったり、当該意思決定を前提として次の意思決定が行われる等審議、検討等の過程が重層的、連続的な場合には、当該意思決定後であっても、政策全体の意思決定又は次の意思決定に関して本号に該当するかどうかの検討が行われるものであることに注意が必要である。また、当該審議、検討等に関する情報が公になると、審議、検討等が終了し意思決定が行われた後であっても、国民の間に混乱を生じさせたり、将来予定されている同種の審議、検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがある場合等があれば、本号に該当し得る。
なお、審議、検討等に関する情報の中に、調査データ等で特定の事実を記録した情報があった場合、例えば、当該情報が専門的な検討を経た調査データ等の客観的、科学的事実やこれに基づく分析等を記録したものであれば、一般的に本号に該当する可能性が低いものと考えられる。

 

4 第5条第4号(事務又は事業に関する情報)関係

4 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
  • イ 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ
  • ロ 犯罪の予防、鎮圧又は捜査、その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ
  • ハ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
  • ニ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
  • ホ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
  • ヘ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
  • ト 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

【趣旨】
本号は、事務又は事業に関する情報の不開示情報としての要件を定めるものである。

【解説】
国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業は、公共の利益のために行われるものであり、公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については、不開示とする合理的な理由がある。
国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業は広範かつ多種多様であり、公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある事務又は事業の情報を事項的にすべて列挙することは技術的に困難であり、実益も乏しい。そのため、各機関共通的に見られる事務又は事業に関する情報であって、公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを「次に掲げるおそれ」としてイからトまで例示的に掲げた上で、これらのおそれ以外については、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」として包括的に規定している。

1 「次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(第4号本文)

  • (1)「次に掲げるおそれ」
    「次に掲げるおそれ」としてイからトまでに掲げたものは、各機関共通的に見られる事務又は事業に関する情報であって、その性質上、公にすることにより、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる典型的な支障を挙げたものである。これらの事務又は事業の外にも、同種のものが反復されるような性質の事務又は事業であって、ある個別の事務又は事業に関する情報を開示すると、将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの等、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があり得る。
  • (2)「当該事務又は事業の性質上」
    当該事務又は事業の本質的な性格、具体的には、当該事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断する趣旨である。
  • (3)「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」
    本規定は、独立行政法人等に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく、各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり、また、事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」と言えるものであることが求められる。
    「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。

2 「国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」(第4号イ)

  • (1)「国の安全が害されるおそれ」
    「国の安全」とは、国家の構成要素である国土、国民及び統治体制が害されることなく平和で平穏な状態に保たれていること、すなわち、国としての基本的な秩序が平穏に維持されている状態をいう。具体的には、直接侵略及び間接侵略に対し、独立と平和が守られていること、国民の生命が国外からの脅威等から保護されていること、国の存立基盤としての基本的な政治方式及び経済・社会秩序の安定が保たれていることなどが考えられる。
    「国の安全が害されるおそれ」とは、これらの国の重大な利益に対する侵害のおそれ(当該重大な利益を維持するための手段の有効性を阻害され、国の安全が害されるおそれがあると考えられる場合を含む。)をいう。
  • (2)「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ」
    「他国若しくは国際機関」(我が国が承認していない地域、政府機関その他これに準ずるもの(各国の中央銀行等)、外国の地方政府又は国際会議その他国際協調の枠組みに係る組織(アジア太平洋経済協力、国際刑事警察機構等)の事務局等を含む。以下「他国等」という。)との間で、相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に支障を及ぼすようなおそれをいう。例えば、公にすることにより、他国等との取決め又は国際慣行に反することとなる、他国等の意思に一方的に反することとなる、他国等に不当に不利益を与えることとなるなど、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある情報が該当すると考えられる。
  • (3)「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」
    他国等との現在進行中の又は将来予想される交渉において、我が国が望むような交渉成果が得られなくなる、我が国の交渉上の地位が低下するなどのおそれをいう。例えば、交渉(過去のものを含む。)に関する情報であって、公にすることにより、現在進行中の又は将来予想される交渉に関して我が国が執ろうとしている立場が明らかにされ、又は具体的に推測されることになり、交渉上の不利益を被るおそれがある情報が該当すると考えられる。

3 「犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持」 (第4号ロ)

  • (1)「犯罪の予防、鎮圧又は捜査」は、「公共の安全と秩序の維持」の例示である。
    「犯罪の予防」とは、犯罪の発生を未然に防止することをいう。なお、国民の防犯意識の啓発、防犯資機材の普及等、一般に公にしても犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがない防犯活動に関する情報については、本号に該当しない。
    「犯罪の鎮圧」とは、犯罪が正に発生しようとするのを未然に防止したり、犯罪が発生した後において、その拡大を防止し、若しくは終息させることをいう。
    「犯罪の捜査」とは、捜査機関が犯罪があると思料するときに、公訴の提起などのために犯人及び証拠を発見・収集・保全することをいう。犯罪捜査の権限を有する者は、刑事訴訟法によれば、検察官、検察事務官及び司法警察職員であり、司法警察職員には、一般司法警察職員と特別司法警察職員とがある。
  • (2)ここでいう「公共の安全と秩序の維持」とは、犯罪の予防、鎮圧又は捜査に代表される刑事法の執行を中心としたものを意味する。
    刑事訴訟法以外の特別法により、臨検・捜索・差押え、告発等が規定され、犯罪の予防・捜査とも関連し、刑事司法手続に準ずるものと考えられる犯則事件の調査、独占禁止法違反の調査等や、犯罪の予防・捜査に密接に関連する破壊的団体(無差別大量殺人行為を行った団体を含む)の規制、暴力団員による不当な行為。の防止、つきまとい等の規制、強制退去手続に関する情報であって、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるものは、本号に含まれる。
    また、公にすることにより、テロ等の人の生命、身体、財産等への不法な侵害や、特定の建造物又はシステムへの不法な侵入・破壊を招くおそれがあるなど、犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報や被疑者・被告人の留置・勾留に関する施設保安に支障を生ずるおそれのある情報も、本号に含まれる。

     

4 「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」(第4号ハ)

  • (1)「監査」とは、主として監察的見地から、事務又は事業の執行又は財産の状況の正否を調べることをいう。
    「検査」とは、法令の執行確保、会計経理の適正確保、物資の規格、等級の証明等のために帳簿書類その他の物件等を調べることをいう。
    「取締り」とは、行政上の目的による一定の行為の禁止、又は制限について適法、適正な状態を確保することをいう。
    「試験」とは、人の知識、能力等又は物の性能等を試すことをいう。
  • (2)「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」
    上記の監査等は、いずれも事実を正確に把握し、その事実に基づいて評価、判断を加えて、一定の決定を伴うことがある事務である。
    これらの事務に関する情報の中には、例えば、監査等の対象、実施時期、調査事項等の詳細な情報や、試験問題等のように、事前に公にすれば、適正かつ公正な評価や判断の前提となる事実の把握が困難となったり、行政客体における法令違反行為又は法令違反に至らないまでも妥当性を欠く行為を助長したり、巧妙に行うことにより隠蔽をするなどのおそれがあるものがあり、このような情報については、不開示とするものである。また、事後であっても、例えば、違反事例等の詳細についてこれを公にすると他の行政客体に法規制を免れる方法を示唆するようなものは該当し得ると考えられる。

5 「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」(第4号ニ)

  • (1)「契約、交渉又は争訟」
    「契約」とは、相手方との意思表示の合致により法律行為を成立させることをいう。
    「交渉」とは、当事者が、対等の立場において相互の利害関係事項に関し一定の結論を得るために協議、調整などの折衝を行うことをいう。
    「争訟」とは、訴えを起こして争うことをいう。訴訟、行政不服審査法に基づく不服申立てその他の法令に基づく不服申立てがある。
  • (2)「国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」
    国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が一方の当事者となる上記の契約等においては、自己の意思により又は訴訟手続上、相手方と対等な立場で遂行する必要があり、当事者としての利益を保護する必要がある。
    これらの契約等に関する情報の中には、例えば、入札予定価格等を公にすることにより公正な競争により形成されるべき適正な額での契約が困難になり財産上の利益が損なわれたり、交渉や争訟等の対処方針等を公にすることにより、当事者として認められるべき地位を不当に害するおそれがあるものがあり、このような情報については、不開示とするものである。

     

6 「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(第4号ホ)

国の機関、独立行政法人等又は地方公共団体が行う調査研究(ある事柄を調べ、真理を探究すること)の成果については、社会、国民等にあまねく還元することが原則であるが、成果を上げるためには、従事する職員が、その発想、創意工夫等を最大限に発揮できるようにすることも重要である。
調査研究に係る事務に関する情報の中には、例えば、①知的所有権に関する情報、調査研究の途中段階の情報などで、一定の期日以前に公にすることにより成果を適正に広く国民に提供する目的を損ね、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがあるもの、②試行錯誤の段階のものについて、公にすることにより、自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するおそれがある場合があり、このような情報を不開示とするものである。

 

7 「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(第4号ヘ)

国の機関、独立行政法人等又は地方公共団体が行う人事管理(職員の任免、懲戒、給与、研修その他職員の身分や能力等の管理に関すること)に係る事務については、当該機関の組織としての維持の観点から行われる一定の範囲で当該組織の独自性を有するものである。
人事管理に係る事務に関する情報の中には、例えば、勤務評価や、人事異動、昇格等の人事構想等を公にすることにより、公正かつ円滑な人事の確保が困難になるおそれがあるものがあり、このような情報を不開示とするものである。

 

8 「独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」(第4号ト)

独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業については、企業経営という事業の性質上、第2号の法人等に関する情報と同様な考え方で、その正当な利益を保護する必要があり、これを害するおそれがあるものを不開示とするものである。ただし、正当な利益の内容については、経営主体、事業の性格、内容等に応じて判断する必要があり、その開示の範囲は第2号の法人等とでは当然異なり、独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関する情報の不開示の範囲は、より狭いものとなる場合があり得る。

 

5 第6条(部分開示)関係

第6条 独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。
2 開示請求に係る法人文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生。年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。

【趣旨】
本条第1項は、法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合における独立行政法人等の部分開示の義務の内容及びその要件を明らかにするものである。
第2項は、開示請求に係る法人文書に個人識別情報(不開示情報)が記録されている場合に、個人識別性のある部分を除くことによる部分開示について定めるものである。

【解説】

 

1 不開示情報が記録されている場合の部分開示(第1項)

  • (1)「開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合」
    一件の法人文書に複数の情報が記録されている場合に、各情報ごとに、第5条各号に規定する不開示情報に該当するかどうかを審査した結果、不開示情報に該当する情報がある場合を意味する。
    開示請求は、法人文書単位に行われるものであるため、第5条では法人文書に全く不開示情報が記録されていない場合の開示義務を定めているが、本項の規定により、独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録されている場合に、部分的に開示できるか否かの判断を行わなければならないことになる。
  • (2)「容易に区分して除くことができるとき」
    ア 当該法人文書のどの部分に不開示情報が記載されているかという記載部分の区分けが困難な場合だけではなく、区分けは容易であるがその部分の分離が技術的に困難な場合も部分開示の義務がないことを明らかにしたものである。
    「区分」とは、不開示情報が記録されている部分とそれ以外の部分とを概念上区分けすることを意味し、「除く」とは、不開示情報が記録されている部分を、当該部分の内容が分からないように墨塗り、被覆等を行い、法人文書から物理的に除去することを意味する。
    例えば、文章として記録されている内容そのものには不開示情報は含まれないが、特徴のある筆跡により特定の個人を識別することができる場合には、識別性のある部分を区分して除くことは困難である。また、録音されている発言内容自体には不開示情報が含まれていないとしても声により特定の個人を識別できる場合も同様である。
    イ 文書の記載の一部を除くことは、コピー機で作成したその複写物に墨を塗り再複写するなどして行うことができ、一般的には容易であると考えられる。なお、部分開示の作業に多くの時間・労力を要することは、直ちに、区分し、分離することが困難であるということにはならない。
    一方、録音、録画、磁気ディスクに記録されたデータベース等の電磁的記録については、区分して除くことの容易性が問題となる。例えば、複数の人の発言が同時に録音されているがそのうち一部の発言内容のみに不開示情報が含まれている場合や、録画されている映像中に不開示情報が含まれている場合などでは、不開示情報部分のみを除去することが容易ではないことがあり得る。このような場合には、容易に区分して除くことができる範囲で、開示すべき部分を決定することになる。
    なお、電磁的記録について、不開示部分と開示部分の分離が既存のプログラムでは行えない場合は「容易に区分して除くことができない場合」に、該当する。
  • (3)「当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」
    ア 部分的に削除すべき範囲は、文書であれば、一般的には、文、段落等、表であれば個々の欄等を単位として判断することをもって足りる。
    イ 本項は、義務的に開示すべき範囲を定めているものであり、部分開示の実施に当たり、具体的な記述をどのように削除するかについては、独立行政法人等の本法の目的に沿った合目的的な裁量に委ねられている。すなわち、不開示情報の記録部分の全体を完全に黒く塗るか、文字が判読できない程度に被覆するか、当該記録中の主要な部分だけ塗りつぶすかなどの方法の選択は、不開示情報を開示した結果とならない範囲内において、当該方法を講ずることの容易さ等を考慮して判断することとなる。その結果、観念的にはひとまとまりの不開示情報を構成する一部が開示されることになるとしても、実質的に不開示情報が開示されたと認められないのであれば、独立行政法人等の不開示義務に反するものではない。
  • (4)「有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りではない。」
    ア 「有意の情報が記録されていないと認められるとき」とは、説明責任が全うされるようにするとの観点から、不開示情報が記録されている部分を除いた残りの部分に記載されている情報の内容が、開示をしても意味がないと認められる場合を意味する。例えば、残りの部分に記載されている内容が、無意味な文字、数字等の羅列となる場合等である。
    この「有意」性の判断に当たっては、同時に開示される他の情報があればこれも併せて判断されるべきである。
    イ また、「有意」性の判断は、請求の趣旨を損なうか否か、すなわち、開示請求者が知りたいと考える事柄との関連によって判断すべきものではなく、本条では、個々の請求者の意図によらず、客観的に決めるべきものとしている。

 

2 個人識別情報が記録されている場合の部分開示(第2項)

  • (1)「開示請求に係る法人文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合」
    ア 第1項の規定は、法人文書に記録されている情報のうち、不開示情報ではない情報の記載部分の開示義務を規定しているが、ひとまとまりの不開示情報のうちの一部を削除した残りの部分を開示することの根拠条項とはならない。
    個人識別情報は、通常、個人を識別させる部分(例えば、氏名)とその他の部分(例えば、当該個人の行動記録)とから成り立っており、その全体が一つの不開示情報を構成するものである。他の不開示情報の類型は各号に定められた「おそれ」を生じさせる範囲で不開示情報の大きさをとらえることができるのとは、その範囲のとらえ方を異にするものである。
    このため、第1項の規定だけでは、個人識別情報については全体として不開示となることから、氏名等の部分だけを削除して残りの部分を開示しても個人の権利利益保護の観点から支障が生じないときには、部分開示とするよう、個人識別情報についての特例規定を設けたものである。
    イ 「特定の個人を識別することができるものに限る。」こととしているのは、「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(第5条第1号本文の後半部分)については、特定の個人を識別することとなる記述等の部分を除くことにはならないので、他の不開示情報の類型と同様に不開示情報が記録されている部分を除いた部分につき開示することとなるためである。
  • (2)「当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとな
    る記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと
    認められるとき」
    個人を識別させる要素を除去することにより誰の情報であるかが分からなくなれば、残りの部分については、通常、個人情報としての保護の必要性は乏しくなるが、個人識別性のある部分を除いても、開示することが不適当であると認められるものもある。例えば、カルテ、作文などの個人の人格と密接に関連する情報や、個人の未公表の研究論文等開示すると個人の権利利益を害するおそれがあるものである。
    このため、個人を識別させる部分を除いた部分について、公にしても、個人の権利利益を害するおそれがないものに限り、部分開示の規定を適用することとしている。
  • (3)「当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」
    第1項の規定により、部分開示の範囲を決定するに当たっては、個人識別情報のうち、特定の個人を識別することができることとなる記述等以外の部分は、個人の権利利益を害するおそれがない限り、第5条第1号に規定する不開示情報ではないものとして取り扱うことになる。したがって、他の不開示情報の規定に該当しない限り、当該部分は開示されることになる。
    また、第1項の規定を適用するに当たっては、容易に区分して除くことができるかどうかが要件となるので、個人を識別させる要素とそれ以外の部分とを容易に区分して除くことができない場合には、当該個人に関する情報は全体として不開示となることになる。
    なお、個人を識別することができる要素は、第5条第1号イ~ハのいずれかに該当しない限り、部分開示の対象とならない。

 

6 第7条(公益上の理由による裁量的開示)関係

第7条 独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該法人文書を開示することができる。

【趣旨】
本条は、開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録されていても、開示請求者に対し、当該法人文書を開示することができる場合について規定するものである。

【解説】

 

1 「公益上特に必要があると認めるとき」

第5条各号の不開示情報の規定に該当する情報であるが、独立行政法人等の高度の行政的な判断により、公にすることに、当該保護すべき利益を上回る公益上の必要性があると認められる場合を意味する。
第5条各号の不開示情報該当性の判断に当たっては、個人に関する情報(同条第1号)及び法人等に関する情報(同条第2号)のように、個人を識別できる情報や法人の正当な利益を害するおそれがあっても、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要である場合には、開示をしなければならない(個人に関する情報については第1号ただし書きロ、法人等に関する情報については第2号ただし書き参照)。このほか、審議検討等情報(同条第3号)においては、「不当に損なうおそれ」とし、例えば、率直な意見交換を損なうおそれがあるとしても、不当に損なうものでなければ、開示することとなり、事務・事業情報(同条第4号)についても、その遂行に支障を及ぼすおそれがあっても「適正な遂行」でなければ、開示することとなる。
以上のように、第5条各号においても、当該規定により保護する利益と当該情報を公にすることの公益上の必要性との比較衡量が行われる場合があるが、本条では、第5条の規定を適用した場合に不開示となる場合であっても、なお公にすることに公益上の必要性があると認められる場合には、開示することができるとするものである。

 

2 「当該法人文書を開示することができる。」

本条の適用に関しては、公益上特に必要と認めたにもかかわらず法人文書を開示しないことは想定できないが、その規定振り(「公益上特に必要があると認めるとき」)からも、処分の性質(不開示情報を開示すること)からも明らかなとおり、公益上の必要性の認定についての独立行政法人等の要件裁量を認める規定である。なお、この趣旨を明確化するため、見出しは「公益上の理由による裁量的開示」としている。

 

7 第8条(法人文書の存否に関する情報)関係

8条 開示請求に対し、当該開示請求に係る法人文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、独立行政法人等は、当該法人文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。

【趣旨】
本条は、開示請求の拒否処分の一態様として、一定の場合に、独立行政法人等は、法人文書の存否自体を明らかにしないで、拒否することができることを定めるものである。

【解説】
独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書が存在していれば、開示決定又は不開示決定を行い、存在していなければ不開示決定を行うことになる。したがって、法人文書の不存在を理由とする不開示決定の場合以外の決定では、原則として法人文書の存在が前提となっている。
しかしながら、開示請求に係る法人文書の存否を明らかにするだけで、第5条各号の不開示情報を開示することとなる場合があり、この場合には、法人文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否できることとするものである。

1 「開示請求に係る法人文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるとき」

開示請求に係る法人文書が具体的にあるかないかにかかわらず、開示請求された法人文書の存否について回答すれば、不開示情報を開示することとなる場合をいう。開示請求に含まれる情報と不開示情報該当性とが結合することにより、当該法人文書の存否を回答できない場合もある。例えば、特定の個人の名を挙げて、その病歴情報が記録された文書の開示請求があった場合、当該法人文書に記録されている情報は不開示情報に該当するので、不開示であると答えるだけで、当該個人の病歴の存在が明らかになってしまう。このような特定の者又は特定の事項を名指しした探索的請求は、第5条各号の不開示情報の類型すべてについて生じ得ると考えられる。
具体的には、次のような例が考えられる。
① 特定の個人の病歴に関する情報(第1号)
② 先端技術に関する特定企業の設備投資計画に関する情報(第2号)
③ 買い占めを招くなど国民生活に重大な影響を及ぼすおそれのある特定の物質に関する政策決定の検討状況の情報(第3号)
④ 情報交換の存在を明らかにしない約束で他国等との間で交換された情報(第4号イ)
⑤ 犯罪の内偵捜査に関する情報(第4号ロ)
⑥ 特定分野に限定しての試験問題の出題予定に関する情報(第4号ハ)

2 「当該法人文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる」

法人文書の存否を明らかにしないで、開示請求を拒否する決定も、申請に対する処分であることから、行政手続法第8条に基づき、処分の理由を示す必要がある。提示すべき理由の程度としては、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると考えられる。また、個別具体的な理由提示の程度については、当該情報の性質、内容、開示請求書の記載内容等を踏まえ、請求のあった法人文書の存否を答えることにより、どのような不開示情報を開示することになるかをできる限り具体的に提示することになる。
また、存否を明らかにしないで拒否することが必要な類型の情報については、常に存否を明らかにしないで拒否することが必要であり、例えば、法人文書が存在しない場合に不存在と答えて、法人文書が存在する場合にのみ存否を明らかにしないで拒否したのでは、開示請求者に当該法人文書の存在を類推させることになる。

 

(参考)
行政手続法(抄)
(理由の提示)
第8条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。

PDF
02011kaiji_shinsa_kijun_20150401.pdf263.96 KB